谷川岳・マチガ沢〜東南稜

 ―― 雨具着用の岩登りなんて! ――

谷川岳・マチガ沢〜東南稜


期  日 1998年10月4日(日) パーティ 中村孝 阿部功


タ イ ム 天候 曇り後雨 
マチガ沢出合(6:00) ―― 第一展望台(6:40) ―― 東南稜 取り付き(9:30〜10:00) ―― 終了点(10:50〜11:05) ―― オキの耳(11:15) ―― 引き返し点(11:30) ――オキの耳(?)―― トマの耳(11:50) ―― 肩の小屋(11:55〜12:00) ―― 第一展望台(12:50〜13:05) ―― マチガ沢出合(13:25〜14:35) ―― 水上IC(15:00) ―― 川越IC(16:45) ―― 春日部駅(18:20〜18:28) ―― 三ノ輪(19:05) ―― 自宅(19:10)


 

 私のリハビリ山行も回を重ねめでたく第4回を迎えることができ、久々に谷川岳に行くことになった。この計画は集会後の『養老の瀧』で「秋のマチガは綺麗だよ!」という阿部さんの一言に始まった。それじゃあみんなで10月第2週の土日で谷川に行きましょうと某Jさんと阿部さんと3人で計画らしきものが出来上がった。この時点では決行前に集会があるのでその時メンバーを募集する手筈だったのだが突然阿部さんから電話で「間違えちゃった!俺が休めるのは第1週だった!」ということで急遽第1週に予定変更になった。そして3日だけしか都合がつかない某Jさんが阿部さんとどっか1本登って帰京、入れ替わるように現地入りする私が4日に阿部さんとどっか1本ということになった。ところがまたまた突然、いざ出発!というほんの数時間前に某Jさんの知り合いにご不幸があり、結局10月4日の1日だけ、2人で谷川に行くことになったのである。(人見ハイキング部長、無理なお願い言ってごめんなさいね。それも体育祭予行練習の忙しい時に電話して。)

 土曜の午後3時に阿部さんの新車テラノで春日部を出発。7時前にマチガ沢出合に到着。沢の手前50mくらいにある駐車場の反対側に「マチガ沢園地」というベンチのある平地があってここが良い天幕場になっている。(2〜3張りしかだめだからここに泊まりたいときは早い時刻に現地に着いてね。)春合宿から人の変わった私は9時就寝、5時起床6時出発と宣言したのち、お約束の入山祝いをする。クーラーボックスに入れて御神酒を持ってきてくれた阿部さんに感謝。深酒することなく就寝。

 翌朝、テントは置きっぱなしにしたまま予定の時刻通り出発。下部は巌剛新道を利用して第一展望台に至り、そこからマチガ沢に降りて『マチガの大滝』下で少休止を取る。休んでいると同じく東南稜に行くという3人パーティーが来た。東南稜はギャラリーが居ないと張り合いがない、なんて言葉を交わした後、一足先に出発。マチガの岩は白く、フリクションが抜群に効くのでスニーカーでペタペタと歩くことができるし、一の倉と違って明るく開放的なので気分がよい。

 沢沿いに適当に遡行していったが印象に残っているのはチョックストーンの滝と数段の滝。前者では靴の濡れを嫌い、裸足になって這い上がり、後者ではびしょびしょに濡れていて、コケが付着しヌルヌルと滑るのでザイルを出した。天候は生憎と曇り、しかも上部はガスがかかっているので何処が取り付きか分からない。それどころか東南稜そのものが何処にあるか分からず、ちょくちょく立ち止まっては周囲を観察した。以前に来たことがあるという阿部さんだが、その時は東南稜の取り付きが分からずそのままマチガ沢をつめてしまったそうだ。

 「あ、多分これだよ!踏み跡あるし…。」と右股の少し奥にある岩稜に向かってみたが、どうも違うようだ。もう少し沢をつめてみよう、ということで左の沢床の低い方を歩いていくと水量がどんどんと減ってくる。ありゃ?と思う間もなく国境稜線へと続く踏み跡に出てしまった。と、その時、後続する3人パーティー(?)の声が遙か下の方から聞こえてきた。「ありゃあ…。間違えちゃったな…。下降して取り付こうか…。」と阿部さん。でも、ここからの下降は濡れた草付きだらけで滑りそうだし、声の聞こえ方からするとかなり下まで降りなければならない。お互い口数が少なくなる。そして「降りるの怖いし、天気も悪くなりそうだからこのまま詰めちゃおう。あーあ…。前回の二の舞だよ…。悪かったねー。」としきりに阿部さんは謝ってくれる。が、私自身も注意深く歩いていたのに、全然取り付きが分からなかったのだから阿部さんが悪いんじゃない。

 踏み跡を詰めていくと小尾根の乗越し上にある見晴らしの良いテラスに出た。この時だけ、少しガスが晴れ、周囲の展望がちょっと開けて来たのでそこら辺を見渡すと、我々の右下に東南稜らしき岩稜があるではないですか。「あれ、そうじゃないか?ここから下れそうだから行ってみよう。」と阿部さん。とことこ下っていき壁を見るとシュリンゲがかかっている。どうやら間違いなさそうだ。右側に回り込むと凹角状の岩場があり、真新しいピンが打ってある。ノーマル・ルートの取り付きだ。時刻は9時30分。一度は諦めた今日の登攀だが、ひょんなことで実現した。でも、さっき、声が聞こえた場所は随分と下のようだ。取り付きさえ分かれば登ったも同然、大休止を取る。(ここから、やっと登攀の話題になるのだが、ガスっているときは東南稜を同定するのが核心だ!)マチガ沢東南陵

 1P目、阿部さんリード。凹角状を直上し(10m)ハングを避けて右にトラバース(W+)。W+ではあるがハング下はびしょびしょ・ヌルヌルでW+なんてもんじゃない。私はためらわずに残置シュリンゲを掴みA0で乗越す(25m)。2P目、私の番。右のクラックか左の凹角がルートと書いてあるがクラックにピンは皆無。こんな濡れてヌルヌルの岩をノーピンで登るのはイヤだ。左に5mトラバースし凹角に入る。凹角内にはピンが沢山あるので適当に効いていそうなものを選んでザイルをかけていくが5mほど直上するとびしょびしょ・ヌルヌルの傾斜の強い岩が出てきた。おまけにピンもない。と、この凹角を形成する右側の岩は乾いていてしかもピンが何本も打ってあるので、ためらわずトラバースしランニングを取って一安心。少し被っているが登れそうだなと見上げるが、全くピンなし。仕方なく更に右にトラバースして傾斜の緩い易しそうなクラックに向かう (この2ピッチは、沢のびしょびしょ・ヌルヌルの滝登りが大好きだという某J氏に是非登って欲しいものだ!) 。もうお分かりのように左に5mトラバースしその後右に約10mトラバースしているので当然ザイルが重くなってしまったため、クラック下でピッチを切り阿部さんを迎える(20m)。3P目、阿部さん、易しいクラックから左上気味にリッジの背を目指すように登る。ルート図2P目の終了点でビレイ(20m)。4P目、私の番。5mほど左にトラバースすれば後はリッジ通しなので、リッジの背を目指して行く。リッジに出るとU級の易しい岩場。ガスの中、左手の方から人の声が聞こえる。国境稜線は間近のようだ。雨が降ってきたがまだフリクションが効くのでぐんぐんとザイルを伸ばす。30m伸ばしたところでピッチを切る。だんだんと雨足は強くなってきた。周りはガスに包まれていて、この先どうなっているか訳が分からないのであと1P、スタカットで登る。

 雨具を身に付け、スニーカーに履き替えてから国境稜線を目指し登山道に出たところで完登の握手。ここで私は左に向かったつもりだったのだが実際は右に、つまり一の倉岳方向へ歩き出してしまった。「こっちでいいの?」と阿部さんは言うが自信満々で「そうだよー」と答える私。しばらくして再び「ホントか?」と言うので「稜線に出て左側に行ってるんだから間違いない!」と断言すると「いや、右に進んでいる。」と阿部さん。そういえば天候が悪いと、越後側から風が吹いてくるのだから、その風は進行方向右から吹いてくるはずだ。が、実際は左から風は吹いている。更に、越後側はナナカマドやらハイマツで踏み跡らしきものは皆無のはず。いかん、阿部さんの言ってることがホントだ。でも、確かに左に来たはずだったのに…。再びオキの耳を通過し、しばらく行くと人の声、「オキの耳はこっちでいいんですか?」。そこで逆に「肩の小屋からですか?」と聞いたところ「トマの耳から」と答えた。それを聞いた阿部さんは、勝利の(?)笑い声をあげる(年寄りの言には従うべきです、何て言うと怒られちゃうかな?)。

 ますます雨は強くなり、トマの耳をパスしようという阿部さんを「頂上は大事です!」と説得し完全武装の姿でおきまりの記念撮影。この天候にも関わらず頂上には10人以上の人がいる。その中の一人のおばさんに「この天気で壁を登ってきたの…。偉いねー!すごいねー!」とお褒めの言葉をいただいた。ホントは雨の中なんてイヤだったけど途中から降られたもんで…、とかなんとか答える。肩の小屋で早く熱いコーヒーを飲もう、と小屋を目指すが中は満員御礼。小屋の周囲にはこの大雨にも関わらず30人くらいの人々が立ったまま食事をとっている。中でお湯を沸かすことを諦め、そのまま西黒尾根を駆け下りる。「降ってんのは頂上周辺だけだろう?下に行けば天気いいんじゃないの?そこでコーヒー沸かそう。」と阿部さんと私。いつもポジティブ(脳天気かな?)な2人である。膝にくるからゆっくり下るよ、と阿部さんは言うが、雨と風のため段々と早足になっていく。途中10人以上の団体さんに何組か追いつくがそれらのパーティーはことごとく道を譲ってくれない。風雨の強まるなかノロノロと後続するのは辛いので、マナーに反するがちょっとした岩場のところで追い抜く。

 第一展望台まで下ると、マチガの大滝を懸垂の準備をしている3人パーティーが見える。今朝のパーティーのようだ。「ケガでもして引き返してきたのかな?」と心配そうな阿部さん。様子を窺うついでに一本取る。3人とも動いているからケガではなさそう。1人が無事に下降できたことを確認したので腰を上げる。マチガ沢出合着が13:25。トマの耳から雨で滑りやすい登山道を実働1時間20分弱。これじゃあ新人の頃の「転ぶより速く降りるんだ!」という訳の分からない教えを受けた当時のタイムに近い。膝に来るからゆっくりね、なんて言っておきながらいざとなると昔の血が騒ぐのがおかしい。

 「雨具着てまで登ろうなんて思わないよねー。」等と言っていたが結局は雨の中の岩登りをする羽目になってしまった2人だが、テントの中で暖かいコーヒーなんぞを口にした頃には、

この天候で谷川を1本登れて、ちょっと幸せな気持ちになるのであった。


テクニカル・ノート
 

1P
 

凹角〜ハング下を右トラバース(W+、25m)乾いていれば快適かも?

 
2P
 
左凹角を直上〜やや右上のクラック下へ(W+位かな?、2
 



 
3P


 
ちょっと左トラバース〜リッジを直上(U、30m)。乾いて晴れていれば国境稜線やオキの耳からの声援があり気分爽快かつ快適かも?
 
【所要時間】 40分(乾いていれば30分かからないと思う。ただ、アプローチが長い。)
     ※フレンズ(小〜中)少々とナッツ中〜大を持っていくと良いと思います。