火打山(2462m)・妙高山(2445.9m)(黒沢池ヒュッテ泊)

坂井 清


実施日 1999年9月11日〜12日
参加者 福田 和子・坂井 清
天 候 1日目・曇り時々晴れ頂上ガス 午後雨ぱらつく  2日目 曇り一時晴れ 頂上ガス

記 録  第一日 前夜車でアプローチ 3:05 笹ヶ峰着(所要時間 3時間30分)
       6:00 出発  6:50 黒沢  8:15 富士見平  9:00高谷池ヒュッテ(デポ)
       9:30 スタート  10:40 火打頂上  11:00スタート12:00 高谷ヒュッテ
       12:40スタート13:20 黒沢池ヒュッテ
 第二日 4:30 起床  5:50 出発  6:40燕新道分岐  7:35 妙高山山頂
       7:55 山頂スタート 9:15 大倉乗越  9:35 黒沢池ヒュッテ9:50スタート 
       10:30 富士見平  11:30 黒沢12:55スタート  12:35 笹ヶ峰駐車場着 
       18:00 練馬帰着        

今回の山行は、始めから小屋泊りと決めていた。娘の大学時代の親友が妙高におり、会いたがっていたし、
「妙高なら私いつでも運転して行ってあげる」というのに便乗して、燕温泉起点・帰着の「小屋泊り・ドライバー
付き・温泉付き・下山祝い付き」の大名山行というか、敬老山行というか、とにかく山岳会に席を置いているもの
にふさわしからぬ計画である。5月の鳥海山スキーで、あの堕落の最終日以来、「ダラクってものはとっても楽
しいものなのだ」と人見先生が喝破したように、禁断の実は、一度口にするともはや逃れる術はないのかもしれ
ない。それで、多少やましい気持ちを抱きながら、新潟までひとりで行くのももったいないしと、おそるおそる集
会で公開したところ、福田さんが同行することとなった。
 だが、直前に娘のスケジュールがくずれ、自分で運転する羽目になってしまった。コースも急遽変更した。だが、小屋泊りは変更しなかった。
  【第一日目】 雨の降り残る暗闇の道を、カーナビを頼りに順調に目的地へと近づいた。ライトに照らし出された、登山口の駐車場は、すでに満杯で、さすが100名山の起点やなーと感心したり、駐車場所を探そうと目を凝らしながら先へ進と、300m程先に、なんとキャンプ場の広い駐車場があった。ここにもすでに20台ほどの
先客があり、それぞれ仮眠しているようであった。トイレや売店もあることを確認し、われわれもすぐ仮眠した。
4:30エンジンの音や、ひとの動く気配に目を覚ますと、うすいガスを通して明けの明星が見える。快晴だ!。
 車の中で朝食をとり、ゆっくり身支度をして6:00にスタートした。
 最初のピッチは黒沢まで。高原のひいやりとした冷気の道は緩やかな登りだ。大きなブナの木々を縫って、広く歩きやすい道だ。
 黒沢はこのコース唯一の給水ポイントで、この先、火打も妙高にも飲料としての水場はない。(高谷池にも黒沢ヒュッテにも水はあるが、池の水か雨水で、煮沸しないと飲料にならない。但し、1L700円!でミネラルウオーターを買うことはできる。)
黒沢の倒木橋を渡るといきなり12曲の急登となる。いつもと違って、荷が軽く、気分も軽く、足取りも軽い。
富士見平まで一気に登った。というのも福田さん 快調・順調・絶好調で、キツイ・ツライ・クルシイなどという言葉は福田辞書にはないごとく、先行隊をすいすい追い抜いて行く。これより2日間、コースタイムをすべて短縮し、まれに見るスピード登山となった。(私の辞書は、キツイ・ツライ・クルシイ・ヤスミタイの文字でいっぱいだったが・・。)
私はひそかに「怪鳥?福田スーパーエクスプレス」と命名してしまった。聞けば、片道6キロの道のりを、トレ
ーニングママチャリ通勤の日々とか。「励る者は報われる」か、心底納得。
富士見平からは、根曲り竹の混じった、あまり歩きやすくないが、ほぼ平坦な道を、小さな高低を繰り返しつつ、黒沢岳をトラバース気味に行くと、いきなり、といった感じで高谷池ヒュッテに着く。廻り込むように入り口があり、さらに進むと、これも いきなり、といった感じで、高谷池の湿原帯を目の当たりにする。第一番目の絶景ポイントだ。池のほとりに広くテラスのように丸太ベンチとテーブルがあり、ここで小休止。あいにく天気は曇ってきてガスに包まれてはいるが、湿原の風景にはこのほうがふさわしいかもしれない。ここのヒュッテは村営で、自炊が基本で1泊3,500円とある。
ベンチに、それほど重くもないザックに、レインカバーをかけてデポ、火打山頂へ向かった。高谷池に沿うように緩やかに潅木帯を登って行くと、またまた いきなり、といった感じで絶景ポイントNO,2に着く。天狗の庭だ。
 夏の終わり秋の初めの、モノカラーにちかい色彩の中に、輝くような金色の草木帯が点在する。紅葉のファッションを最初に取り入れた、あのおしゃれな植物はいったいなんなんだろうか?「わーすごい!」と言ったきり、後は言葉が続かなかった。多分この絶景の先には、たおやかな火打の山頂が錦絵のように屹立しているのだろうなと、想像しつつ展望用テラスに立てば、アラ・アラなんと!立ちこめる霧が、見る見る風に吹き流されて、まるで舞台装置のように火打の山容を見せてくれた。その間約30秒。このマジックのような奇跡は、翌日の見返り妙高山でも再現された。きっとわれわれ二人は、神の善良なしもべ、神に祝福された、パーシャル晴れ男・晴れ女に違いない。
 パーシャル神の子のせいか、火打の山頂はガスっていた。景観はまたの機会にゆずって、高谷池へ引き返した。簡単に昼食をすませ、黒沢池ヒュッテへ向かう。茶臼山越えのルートは、木立の中は木道や階段で整備され、上り詰めれば楽しい稜線あるきだ。春先にかけて山スキーの格好のゲレンデになるというのもうなずける。箱庭のような湿地池のほとりに建つ近代的なドーム型のヒュッテを眼下にして、快い疲労と、素晴らしかった今日の山行の余韻を楽しみながら、目的地がしだいに近づいてくるのは至福の刻だ。13:20にはヒュッテに着いてしまった。まだ入室もできず、受付を済ませた後、早速お決まりのウングツ!ウングツ! プハ〜のタイムだ。時間がタップリあるので小屋前のテーブルで500MLをゆっくり味わう。そばを通った男性が「アア見なけりゃよかった」といいつつ受付に向かったが、出てきたときはしっかり500MLを手にして、われわれを見てニヤリ。
かくして、一日目はめでたくも楽しく終了した。

 【第二日目】 5:30から食事だと聞いていたのに、4:00過ぎると人の動く気配がしだいにざわめきに変わってくる。
 それにしてもよく寝た。爆睡9時間、やはり小屋泊りは楽だ。「ダラクはラクダ」。
 5:00には朝食の開始。なんと焼きたてのクレープにツナサラダやスープ。コーヒーは飲み放題。まさにシティー派のブレックファーストだ。ツアーずれした世話好き、自慢好き、オバサングループに囲まれながらも充分食べた。こうやってダラクを続けていると、今に同席のオバハンみたいになっちゃうにかなあと、思わず福田さんとうなずきあった。
 天気は、雨は来そうにないが,曇ってガスがかかている。今日もザックは小屋にデポして、5:50にはスタート。ワンピッチで、大倉乗越を越え長助池の分岐へ。ここからは、さすが百名山というか、楽しては頂上踏ませませんよというか、頂上までひたすら急登が続く。「福田スーパーエクスプレス」は今日も絶好調で、私が無粋な雉撃ちタイムを入れなければ、トップで頂上に着いたに違いない。頂上は今日もガスっており、パーシャル神の子の願いは通じなかった。未練がましく待っていても天候は回復しそうもないので、早々に下山。大倉乗越で振返ると、なんとまたガスが風に吹き払われ、妙高山がくっきりと全容を現した。さすが神の子、さらば妙高と、すべてのものに感謝の気持ちで、一気にヒュッテまで駆け下りた。すっかり静かになったヒュッテでザックを背負い、笹ヶ峰へと帰路についた。富士見平にむかって歩き始めてすぐ、すばらしい風景に出会った。黒沢の源流となる黒沢池湿原帯だ。約30分間の道のり、前後に誰もいない静かな湿原を心行くまで満喫した。尾瀬ヶ原にも劣らぬスケールと、尾瀬では得られぬ静寂を、幾度も感嘆の声を交わしながら歩いた。この風景を最大のお土産として、満足感に浸りながら充実した山行を終了した。