前穂高岳 北尾根

カト

期日:2009年5月2日〜5月6日


 穂高三山(北穂高、奥穂高、前穂高)は、荒れもせず、静かで、鋭角の雄々しいスカイラインで暖かく迎えてくれた。
 5月3日北穂東稜、5月4日前穂北尾根−奥穂は、アルパインクライミング入門コースだと解説されていたが、岩稜・岩壁、雪稜・雪壁の登攀は、厳しさに加え前穂北尾根−奥穂の12時間にも及ぶタフなルートは登攀技能、体力、経験など未熟で前期高齢者組に突
入した私にとっては試練の場であった。
 しかし、お陰様で憧れの穂高をほぼ計画通り楽しく山行でき、かつ4日間のテント生活でメンバーの新たな側面の発見や私を含めた酒飲み武勇伝、先輩諸兄のエピソードなど素顔で語り合うことのできる仲間の素晴らしさを再認識した穂高合宿でもあった。また、4
日目の5月5日(予備日)に涸沢BCを撤収し小梨平まで下山したことは、翌日がひどい雨に急変したことを考えると笹田Lの判断の素晴らしさに感服した。 笹田Lほか皆様のお陰で楽しい山行ができたことが有難く、感謝で一杯。

 入山の5月2日、涸沢ヒュッテのテラスでの生ビール、おでん、いたさん持参のフォアグラペーストで入山祝い。楽しい穂高合宿の始まりだ。
 5月3日北穂岳を目指す。涸沢BCを6時出発。東稜隊の深沢SL、いたさん、ハギちゃん、あっちゃん、私の5名と、南稜隊の笹田L、みきさん、ヨシさんの3名は北穂沢を途中から左右に分かれてそれぞれの尾根を目指す。
 東稜隊は先頭のハギちゃんが快調なペースで進み先行2パーティの背中が小さくなることがない。急登しながら、朝の持ち物確認で財布が見当たらなくて気になっていたので、尾根に上がり携帯でクレジット&キャッシュカード停止の依頼を自宅にする(財布は常備
の薬袋から翌日発見)。皆さんを少し待たせてしまったが、行動に支障はなかったと思う。多分?。深沢SL、あっちゃん、私の3名P、いたさん、ハギちゃんの2名Pに分かれコンテで進む。快晴の下、雪の白、岩稜帯の黒とのコントラストがつくる美しいスカイライ
ンにうっとりしながら稜線を行く。
 ゴジラの背と言われる厳しい岩稜・雪稜地帯は楽しく通過できるが、ゴジラの首あたりのナイフリッジは深沢SLから先頭の指示があり、へっぴり腰でゆるゆると通過。この辺は足腰の鍛錬度と経験が如実に現れれる場面だ。

 稜線上から南を見れば遥か遠い南稜線上に南稜隊Pがこちらを呼んでいる。思わずケッチボーを叫び手を振る。南稜隊も大きく手を振る。遮るものがない3,000m級の稜線ならではの醍醐味を味わう。北穂岳小屋まで一気に登る。頂上には雪壁に作った階段を登る。広い空間。頂上南端から下を見れば頂上直下、松涛ノコルに南稜隊がきている。頂上で南稜隊を迎える。集中のタイミングは計ったようにぴったり、と思ったがいろいろ事情があったようだ。北穂沢を一気に下る。

 5月4日前穂北尾根隊はビバーク装備で4時20分出発。ザイテン−奥穂隊のいたさん、みきさん、ヨシさんに見送られて前穂高岳、奥穂高岳を目指す。笹田L、あっちゃん、私の3名Pが先に出る。深沢SL、ハギちゃんPは10分遅れでスタートだがすぐに追いつ
かれる。5・6のコルまでの急登は、昨日の北穂東稜尾根への急登より楽な感じだが、それでも昨日と同じ1時間10分を要す。先行していたパーティをコルで追い抜いたため前にはほとんどいない。北尾根を独占している感じだ。
 5峰からの登攀はコンテで4峰まで先頭を行く。5峰の最初の取り付きで笹田Lから岩にへばりついては駄目、足で立ちこめ、と注意を受けて我に返る。これまでの練習を思い出し冷静さを取り戻す。
 3峰は笹田Lがリードし、私がビレーする。4Pをスタカット&ダブルロープで登攀。笹田Lは二人のセカンドを一度にビレーするのだから大変だ。核心といわれる3峰を懸命に登る。最後のチムニーを抜け出し頭をにゅっと出した瞬間の開放感を味わう。
 2峰から前穂頂上まではコンテで行く。登攀を楽しむ。11時20分頂上。曇っているが槍ヶ岳の穂先が天空に聳えている。槍の頂上はどんな様子か、何人立てるのか、穂先までいけるのかなど妙に心を奪われる。
 前穂から吊尾根、奥穂へのルートは長く厳しく緊張の連続であった。特に吊尾根はクライムダウンなど危うい場面が2度あった。アイゼンを岩に微妙に引っ掛けバランスを崩し絶壁を半身覗いたことが1度、急雪壁を後向きで下降する際に立ち込みが十分でなく片足をずるっとすべらすことが1度。今でも思い出すとぞっとする。
 心配していた足腰は大丈夫。昨年12月蝶ヶ岳合宿の脱水症状の二の舞はごめんだ。レーション、水の補給をこまめに行い、鼻呼吸、腹式呼吸に徹した。
 14時25分奥穂。遠かった。厳しかった分頂上に立ったときの達成感は格別だ。
 16時30分涸沢BC。ロングラン行程の12時間10分は辛さ、格闘というより山や仲間との調和を教えられた時間であった。
 涸沢BCでいたさん達ザイテン−奥穂隊に暖かく迎えられる。温かい紅茶を入れていただき、しかも私の夕食当番を疲れているだろうからと、いたさんのご配慮でみきさんが代わってくれる。温かい心が身に沁みる。

 今山行もやはり課題が残った。特に、岩稜帯、雪壁のルート選定や下りの歩行が下手糞だ。課題の克服は精進するしかない。
 課題はさて置き、5日間の合宿、1日で12時間の行動など初めての経験をブレーキや事故もなく乗り切ることができた。参加者のいたさん、笹田L、深沢SL、みきさん、ハギ幹事、あっちゃん、ヨシさんに改めて感謝したい。ありがとうございました。