赤岳・阿弥陀岳北稜

あつこ

期日:2010年3月20〜22日
参加者:笹田(CL)、ニシノ、あつこ


※3月20〜21日の美濃戸口チームの記録はこちら
3月20日
新宿7:00〜小淵沢8:54〜大泉清里スキー場10:00〜(真教寺尾根)〜牛首山11:30〜赤岳17:30 3月21日
赤岳8:00〜赤岳展望荘9:30〜(地蔵尾根経由)〜行者小屋11:00
3月22日
行者小屋5:30〜阿弥陀岳北稜取付7:00〜阿弥陀岳9:15〜行者小屋11:00〜美濃戸口15:20

3月20日
 新宿7時発のスーパーあずさで小淵沢へ向かう。小淵沢駅で美濃戸口チームと別れ、タクシーで大泉清里スキー場へ。登山者がリフトに乗れるかどうか不安だったが、「雪山体験の方もOK」との表示に、喜び勇んでパノラマリフトに乗りこむ。計画では牛首山もしくは2316mピーク付近で幕営(ビバーク)予定だったが、明日以降悪天の予報のため、行ける所まで行くことにする。
 この日、登山者は他にいないようで、静まり返った森の中を歩く。気温は高いが風が冷たい。雪はしまっていて歩きやすいが、急登の途中で安全のためピッケルを出した。牛首山から先はしばらく平坦な尾根歩きが続く。やがてトレースが消えプチラッセル状態になるが、「よく見るとかすかに跡が見える」との笹田さんの言に、目を凝らしてトレースの痕跡を探しながら歩く。時折視界が開けると、左手に険しい天狗尾根が見えた。森林限界手前の樹林の中でアイゼンをつけ、ロープを出してコンテの準備をする。振り返ると、登ってきた真教寺尾根と隣の県界尾根が並んでいた。
 しばらくすると、げんなりするような急登が始まる。表面が固く内部が柔らかい最中雪で歩きづらい。やがて「8/10」の表示がある鎖場に着き、凍りついた岩を慎重に越えていく。何箇所か危ない場所では、笹田さんに確保していただいて登った。途中で天狗尾根を登ってきたパーティーとすれ違うが、日帰りでこれから真教寺尾根を下るとのことで、頭が下がる。また、気づけば後ろから2人組が登ってくるのが見えた。日が傾き始める頃ようやく鎖場が終わり、赤岳・その他への標識が見える。しかしここからが長く、強風の中をひたすら歩き、赤岳山頂を素通りし、山頂小屋に着いたのが17時半だった。後ろの2人組がどこで幕営したのかは不明。
 それなりにハードな行程と、これから一晩すごす我が家がツェルトという切ない現実にしばし呆然とするが、山頂小屋の裏を少し掘り、ささやかな壁をこしらえてツェルトを張る。しかし、これがうまくいかない。取り敢えず中に入るが、強風のため隅を押さえ込むことができず、どう頑張っても片側がはためいて開いてしまう。気温が高いのが救いだが、笹田さんの処置により押さえ込みに成功するまで、1、2時間ははためきとの格闘が続いた。夜半には雪が降り始め、翌朝まで続いた。ちなみに夜中に雪の重みでツェルトがたわみ、私の顔に張り付いていたとのこと。除雪をして下さった笹田さんとニシノさん、ありがとうございました。
真教寺尾根から天狗尾根を望む 真教寺尾根上部は岩稜帯

3月21日
 6時頃起床。計画では行者小屋で美濃戸口チームと合流後、阿弥陀北稜を登攀予定だが、悪天のためとりあえず行者に下ることだけを考える。ゆっくり支度をし、雪が収まるのを待って8時頃出発。
 風が吹き荒れガスで視界は10mほどしかなく、自分では方角の判断が全くつかない。後で笹田さんから、視界の悪い強風下では風下に進路を取りやすいので注意が必要との指摘を受けた。赤岳展望荘までは急な下りが多く、ところどころ後ろ向きになって下る。そのうち1箇所では、強風のため斜面にへばりついたまま動けず、笹田さんに救助に来ていただく一幕もあった。雪壁にピッケルとアイゼンを打ち込んで下るのだが、どこか1箇所でも外そうとすると、途端に風に煽られて飛ばされそうになり、身動きが取れない。待たせているお二人には申し訳ないし、永遠に張り付いているわけにもいかないのだが、かといって無理をして落ちても困るし・・・と途方に暮れていたので、とてもありがたかった。またその後、稜線上で立ち往生した私をニシノさんが助けに来て下さり、先輩方の心遣いが身にしみた。
 平時であれば30分程度の行程を、1時間半かけてようやく赤岳展望荘に到着する。中で30分ほど休憩するうちに視界が良くなり、10時頃行者小屋に向けて出発。小屋で待機していた人々もぽつぽつ動き出す。地蔵尾根を下るにつれて先程までの暴風が嘘のように穏やかになり、登ってくるパーティーも3、4組あった。11時頃行者小屋に到着すると、見慣れた緑のエスパースが目に入り、思わずケッチボーを叫ぶ。計画では美濃戸口1泊組がテントを持って下山の予定だったが、我々を心配して残置して下さったとのことで、ありがたかった。また美濃戸口2泊組のカトさんは、我々と連絡を取るために、携帯の繋がる赤岳鉱泉まで行って下さっていた。そして戻ってきた時にはしっかりビールを抱えていて、改めて阿弥陀登攀を好天予報の翌日に変更した後、合流を祝って乾杯した。時刻は12時前で、食べて飲んで語らって昼寝をし、幸せな午後を過ごした。

3月22日
 4時起床、5時半出発。風はなく穏やかに晴れており、テントに荷物をデポして取り付きに向かう。トレースはばっちりで、景色を楽しみながら進んだ。やがてトレースをつけてくれたパーティーを追い抜き、まっさらな雪に交代で足跡をつけていく。岩場手前ではほぼ直登となり、ピッケルとアイゼンを打ち込み潅木をつかんでよじ登った。取り付きには一番乗りだったが、後から来たガイドのパーティーに先を譲る。我々はニシノ・あつこ組、笹田・カト・グッチー組に別れ、ニシノ組が先行させていただく。後ろには2人組がいるだけで、しかも偶然ニシノさんのお知り合いとのことで、気が楽だった。
白く雪をかぶった森が幻想的 雪稜を登って第一岩峰へ向かう
頂上近くから北八ツ方面を望む トップで登るカトさんの勇姿
山頂はもう間近! 八ヶ岳をバックに登ってくるカトさん、グッチー
 1P目はニシノさんリードで、左側のクラックから取り付く。後から登るが難しく、出だしで固まってしまった。しかしどうにか乗り越えると、すぐ先でニシノさんがビレーしていた。2P目は私リード。登りやすそうな岩場に見えたため軽く引き受けたのだが、これが大誤算。取り付いてみると、どこもかしこもツルツルに凍っていて手も足も出ない。途方に暮れるが覚悟を決めるほかなく、ピッケルで氷を砕いて手がかりを掘り出し、どうにかよじ登った。岩場を越えるとなだらかな雪稜で、歩いてその先の岩場まで行くことができる。岩場にはボルトが2本打ってあり、そこでビレーをするが、ロープを引くのが遅くたるませてしまった。3P目はニシノさんリード。この岩場を登り、左右がこれでもかと切れ落ちた雪のナイフリッジを越えて、やや広くなった稜線まで。ここでニシノさんが肩がらみでビレーをしており、ハグして登攀成功を喜び合った。あとはなだらかな斜面を歩いて山頂へ向かうだけ。9:15登頂、その後笹田組と合流し、改めて健闘を称え合った。
 すばらしい景色を堪能した後、下山を開始する。中岳沢に明瞭なトレースがあるが、雪崩を考慮した笹田さんの判断により、その先の尾根を下る。見た目よりは歩きやすいが、ところどころ急な箇所があり、一般道に合流する手前の急斜面でグッチーが足を滑らせた。片足を傷めたようだが歩けるとのことで、取り敢えず行者小屋まで下る。ちなみに事故が起きた場合、不必要に騒いで負傷者を動揺させないことが大事とのこと。行者小屋で患部を冷やしテーピングで固定する等の処置をとる。幸い大事には至らなかったようで、普段通りもしくはそれ以上のスピードで南沢を下り、15:20に美濃戸口に到着。そして交渉人・カトさんのおかげで、すぐに5人でタクシーに乗り込むことができ、あっという間に茅野駅へ。あずさでは座れなかったものの、デッキで楽しく語らいながら無事帰京した。

 毎日違う経験ができ、大変勉強になった山行でした。コンテの準備が遅かったりビレーが下手だったり、岩場や斜面で呆然と凝り固まったりツェルトの張り方を知らなかったりと、反省点や弱点が目白押しでしたが、全力を尽くしたと思える山行でした。たくさんの方に心配もしていただき、仲間のありがたさが身にしみました。みなさま、本当にありがとうございました。