越後劇場「暮れなずむ日向山」

部長

期日:2010年5月2日〜3日
参加者:ハギ、部長、なお、つりし、しらこ(、スター、OB笹山さん)


5月2日
越後湯沢駅→(タクシー)→しゃくなげ湖駐車場…10:15十字峡登山口…10:55一合目…14:30日向山
5月3日
5:30日向山…7:35中ノ岳(8:00発)…9:00日向山(9:55発)…13:00しゃくなげ湖駐車場

 中ノ岳前峰、標高1460mの日向山山頂。3時、景色のいい観測小屋のそばの平地にテントを張る。荷を解くと缶ビール8本が飛び出し、雪の中に埋める。申し合わせたようだが、皆さんの心優しさの賜物。つりし担当の牡丹鍋の食材を並べる。白菜4分の1、刻んだ大根、にんじん、ねぎ、油揚げがそれぞれ1パック、ほうれん草、しめじ2パック、えのき2パック、ごぼうささがき2パック。味噌、調味料。そして本日のメイン、冷凍イノシシの肉3ブロック1キロ。つりしはラグビー部OBと事前シミュレーションをして分量を測定、「歩くと疲れるから」と、なんとその2倍にしたという。小道具が揃い舞台は整い、シェフつりしのデビューである。思えば、フレンチトーストを計画し肝心の牛乳を忘れたカトが、みやしたから白い目で見られた食担デビューも会の伝説となっている。包丁を光らせ堂々の初舞台がいま開演する。つりしを食担に指名したなおが心配顔で見守っている。
 それにしてもここまでの道のりは辛かった。急登途中でつりしは重荷に耐えかね足がつりそうになり「アミノバイタル!」と青い顔でわめいていた。もの静かに歩いていたカラフルしらこも心の中で「クソ、なんでこんな辛いところに来てしまったんだろう」と毒づいていたという。下山するときには飛ばし過ぎたしらこのアイゼン歩行をなおが注意していたが、この登りでは誰もが無口になっていた。
つりし、猪肉をカット中 眺めのすばらしいテン場
 キンキンに冷えたビールで完敗。幕は切って落とされた。脇役部長が白菜をちぎり、正面の主役つりしが入刀式。肉のブロックを丹念にスライス、「なるべく薄くすることが肝心」などと能書きをエラそうに語る。同じ脇役のハギは積んできたふきのとうをどう調理するかで議論、なおの提案で蕗味噌を造ることになる。軽く茹でて刻み、大量持参してきた合わせ味噌をからめる。ハギ隊長が味見、「ウン、上出来じゃ」なおもつりしも「ウメー、ウメー」とビールの肴にする。しらこだけが「この味はダメ」と拒否。皆から「酒飲み人生の修行がまだ足りない」と指導を受ける。
 本当の主役は牡丹鍋である。つりしは丹念にアクをとり、味を最終調整、なおとハギのお許しが出る。武器に取り分け、つりしがまた能書き「山椒をかけるとうまいですよ」「頂きまーすっ」日向山にしばし静寂が戻り、「ウメー、ウメー」と絶賛の声が上がる。入会二年目、今年度から新SL、つりしの若干四時間の辛く永い苦闘が報われた一瞬である。涙ながらにうなずく。調子こいて次のブロックをスライスし始める。肉の臭みも固さもなく、スムーズに食べられ、かつ重くない。「うまい、美味しい」と歓喜の声が続き、つりしはさらに感涙。ビールもふんだんにあり、ああこりゃこりゃ。
 日がかげり、外で宴会するにはさすがに寒い。フリースやジャンパーをはおって、グビグビ、あふあふ。日向山は5人の北稜衆に完全に占領された。我らと前後して歩いてきた中年カップルは、気を利かして少し先の生姜平に幕営している。
 とそこへ、中年おやじ2人が登ってきた。せっかく盛り上がっているのに、よそ物は来るんじゃネエよ。山だから文句は言わないが。誰かが「今のスターに似てない?」と言うと、皆が「まさかぁ。ところで彼は今頃何してるんだろうね」といいつつビールを飲み続ける。次の酒に移ろうとしていた。太陽が巻機山の向こうの山の端にかかり、いい感じだ。
 そのとき、我らのテント越しにぬっと現れてきたのが誰あろう、スター本人なのである。ブルーのウエアを基調に、サングラスを額にあしらい、夕暮れのスポットライトを浴び、エルビス・プレスリーか、錦野あきらか、はたまたヨン様か。「力竹さーん」と一同声をあげて口をぽっかり。驚くやら嬉しいやらで大騒ぎになる。舞台設定といい、登場のドラマチックなタイミングといい、まさに千両役者である。1グッドタイミングを心がける 2女性を含むパーティーにのみ出現する 3事前アポ無し。スターの三大要素を忠実に実践する、さすがにスターである。音響効果があったら完璧な演出となっただろう。
「いやー、この山きついね」と汗を拭いている。我ら後輩を慰問しにきたのだという。会の同期である笹山先輩を伴い後輩に紹介、5+2、7名のオール北稜隊が結成された。主役つりしはその座をスターに譲り、宴会はヒートアップしていく。久しぶりに現役に合流された笹山OB、美女達の飲みっぷりに目を細めている。珍しく酒量を少なくしてきた部長は先輩の差し入れに大満足、タダ酒に酔いしれ、ああこりゃこりゃ。記憶はないが、凍死するぞとテントに担がれていったらしい。