南会津・黒檜沢

●期日:2013年7月21日
●メンバー:つりし(CL)、エビ、コバ、ハギ(記)
●行程:小豆温泉駐車場06:10~登山道横断点07:45~1030M二俣09:20~高巻き開始1220M地点10:25〜1400M奥ノ二俣12:30~4段30M滝下13:50~登山道22:00~小豆温泉駐車場01:50

●記録
土曜16時赤羽集合。西那須野で高速を下りてから多分24時間営業でないコンビニ(山あいの那須温泉街に入ったら、数軒の個人商店的ヤマザキストアのみ。温泉街手前の十字路にセブンあり)で買い出し。入渓場所の小豆温泉を通り過ぎてアルザ尾瀬の郷の駐車場にテントを張る、水洗トイレ&水道あり。入山祝い後就寝。

翌朝4時起床、小豆温泉スノーシェッドの切れ目にある駐車場へ移動。道路から入渓しようと黒檜沢にかかる橋を偵察するが、止めて三ツ岩岳登山口から5分ほど上がり、容易に沢に降りた。
コバさんが、下山祝いにと人数分ノンアルコールビールを持ってきてくれていて、流されないよう慎重に水に沈める(痛恨の残置品となるとはこの時誰も知らない…)

しばらくは穏やか。晴れていればもっとだろうが、白い花崗岩の綺麗な沢だ。ほどなく下部のゴルジュに入る。水量が豊富なので概ね水線を避けて右から左から、次々に出てくる滝を越す。たまに滝下で股まで浸かるが、思ったほど水は冷たくない。

01黒檜沢_ゴルジュ内
ゴルジュ内、次々滝が現れます

7M滝は登れず右岸の枝沢を登るとすぐに登山道にぶつかる。右に辿ると沢の横断点。銀色が眩しい、新しそうな鉄パイプ製の橋は崩れていた。
いったん開けるが、すぐにまた沢幅は狭まり、滝場。
一旦ゴーロになった二俣を過ぎ、途中ウドが沢山生えており10分ほど足を止め採取。コバさんから、お浸しが絶品というイタドリの新芽を教えてもらう。
再び滝場。最後の12Mくの字滝?、コバさんが果敢にフリーでシャワークライム、たきつけたつりしさんも負けじと続く。エビ&ハギは二人がザブザブと豪快に被ってるのを見て戦意喪失、左の岩壁から抜けると、またゴーロが広がる。

02黒檜沢_シャワークライム
コバさん直登中

ほどなく沢幅いっぱいに雪渓が現れた。端を舐めて少し進んだが、それもままならなくなり、天井が薄いスノーブリッジの先は陥没し、その先も視界が許す限りずっと続いている。ザッツ雪渓、な景色を沢で見るのは初めて、緊張+興味津々で中を覗く。

03黒檜沢_雪渓
雪渓が現れました

状態が悪そうだし側壁トラバースも土壁草付きでずっと行くにはどうか、ということで、纏めて高巻こうとの判断になった。スノーブリッジをくぐり抜け、右岸から藪に入る。途中、発破のような轟音が辺りに響き渡る。どこかで崩落してるらしい。一度本流左に並走する枝沢に降りるが、覗いた本流はまだ真っ白、枝沢に戻り少し上がってから再び藪に入る。高巻き開始から2時間ほどして沢が分かれているようだ、真下は白が途切れている。コバさんの文明の利器GPSで、1400奥の二俣付近に居るらしいと判る。高度計も1400。同時期の記録では、雪渓があるのはこの辺りまでで、詰める予定の左俣は雪がないかもしれない。

時間も押していたので、つりしリーダーは上部も雪渓が続いている可能性を考慮し、登山道横断点を目指して撤退、の選択肢も提示した。しかし話し合った結果、来た道を考えると、滝の側壁は高く洗われていて立木まで遠く、支点が容易に取れず懸垂ロープが足りない可能性、手持ちのハーケンも二枚ということで、撤退も厳しいものになりそうだ。ともかく降りて先を見てみようということになった。

懸垂で本流に降りる。
改めて地図チェック、本当にどんぴしゃで奥の二俣出合の左俣側に出たようだ。同じ斜面なのに雪渓で先がずっと埋めつくされた右俣に反して、左俣は見る限り何もない、この違いは何なのだろう。ともあれ一同喜び、明るい内に稜線に出ようと先を急ぐ。少し前から快晴になり、明るい白い沢はとても気持ちよい。後ろを振り向けば、近郊沢とは別世界な爽快な景色が広がっていた。

04黒檜沢_奥の二俣
1400M奥の二俣、後ろの右俣は雪で埋まっています
05黒檜沢_左俣
左俣は雪なし、快適
06黒檜沢
景色が開けて気持ちいい!

4段30M大滝の巻きをこなせば、核心は終わりだ。つりしリーダーがリード、左岸の草つきを直上(1P)ハング気味な真上の岩を巻いて右にトラバース(1P)、渇いた岩に強いアクアステルス靴のエビさんに交代、立っているスラブ岩を直上(2P)、さらにつりしさん直上(1P)、再びエビさんが岩と草付きのミックスを少し左に寄ってから直上(1P)、後続は固定ロープで登る。初めて使ったがタイブロックが非常に有効だった。にしても30Mロープなのでもう!?というくらいにすぐロープ一杯で、もどかしいほどにジリジリと進んでいく。読んだ記録では落ち口と同じくらい登ればすんなりトラバースでき、沢に戻れたような記述だったのだが。。。

07黒檜沢_奥は4段滝
奥に控えるのは4段滝
08黒檜沢_大滝高巻き中
大滝高巻き中…

傾斜が緩くなる岩稜と藪の境目まで来たときには、かなり高く追い上げられてしまい、沢には戻れない場所にいた。
気持ちを切り替え、このままこの尾根を稜線へ詰めよう!とつりしリーダー先頭に藪に突入。

しかし、上部の藪は強烈だった。ツル、太い笹、シャクナゲの波状攻撃(途中からトゲトゲ草も加わった)。携帯がつながったので、エビさんが18:30ごろ、下山が遅くなる旨掲示板に連絡を入れる。岩に突き当たり、少し左にトラバースして、マシな所から笹を掴んで強引に体を引き上げる(私は一度トライするも腕が負けてずり落ちてしまい、エビさんに最初の一歩ショルダーして貰う)。ザックを外して下に潜りザックを押しながら匍匐前進で抜けたり、足は概ね地面についてなかったり、なにがなんだかだ。ハーネスとかぶら下げているものは全部外してザックにしまった。

いよいよ完全に暗くなる前に、稜線方向にコンパスが合っているか改めて各自確認するようリーダーから指示される。また、ニッチもな岩稜に暗くなってから突き当たったら、明るくなるまでビバークすると伝えられた。

たまに太い木に乗ると頭が上に出て、スッと涼しい風。薄雲が被さっているが満月に近い月の光は力強く周囲の稜線をクッキリ浮き上がらせていて、新月でなくてよかったと思う。こんな所にこんな時間にいる自分が、ケモノになったような気分だ。遅れる私、コバさんが笹を倒したまま再三待ってくれる。
「登山道着いたぞー!!」と先を行くリーダーの歓声・ホイッスルが何度も吹き鳴らされ。全員が固い地面に揃ったのはちょうど22時だった。楽しみにしていた檜枝岐のお風呂もお蕎麦も今や、遠い彼方である。

さぁ…まだ終わってない、下山だ。
ヘッ電をザックに入れ忘れたコバさんよりもソロソロ降りる私を見兼ね、リーダーがストックを片方貸してくれた。3本足になって百人力。
登山道途中の分岐は、沢沿いコースでなく尾根コース(旧道)を選択。この瞬間、冒頭のノンアルビール残置が決定した。

コースタイムの2倍かけて車に戻り、そのままアルザに行く。それぞれ外の水道を借りて頭を洗い、水に浸したタオルで体を拭いて着替え、一応サッパリする。私も異臭を放つ服をぽんぽん脱ぎ捨て素っ裸(一応公序良俗上、皆からは離れた)、もうなんでもありである。午前2時半過ぎ、東京に向けて出発した。

月曜、つりしさん・コバさんはお休みを取り。。。、帰路お二人に運転を任せひたすら眠らせて貰ったエビさんと私は自宅へとんぼ返りで出勤。色々と忘れられない山行になった。

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在京のみなさまには本当にご心配をおかけしましたこと、お詫び申し上げます。自分はパーティのために役に立てたのかと思うと、助けられるばかりで。「One for ALL、ALL for One」の精神で向かわなければならないと、身に染みました。
以下、記述は多少被りますが、MLに送付されたつりしリーダーによる顛末記を原文ママ記載します。
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前夜泊し、入渓は予定時刻6:00、花崗岩の綺麗な沢だが水量多く手ごわい、要所要所でロープを出す。
途中、登山道を横切るところまでネットの記録ではここまで大体1hほど、対し我々は2h特にそれほどのロスがあった覚えもないのだが・・
遡行を続け10時20分 スノーブリッジ出現、延長50m位が確認できる、真ん中薄く崩壊個所ありで、下も上も行ける状況にあらず、小さい枝沢を使って高巻き開始。
(記録でその部分は一部残雪が遅くまで残るとあったので、そこだけではないかとそのときに思った)
しかし高巻中の藪の隙間からときおり見える沢はまるでスキーコース、メンバーに撤退の可能性が高いと告げるが、よく考えると沢の状況は全体的に両壁切り立った泥壁か岩壁 もってるハーケンは2つ、支点となりそうな竹、木は沢床から約5m~10mほど上に生えているので、30mザイルでは床に届かない。(これが豪雪地帯の沢の特徴かと改めて思い知る)
とりあえず予定地点の奥の二俣まで行き方針決定しようと、今回遡行予定 の左俣に懸垂するとスノーブリッジが消えている、情報通りやはり一部なんだと大喜びし遡行続行 時間は12時30分これなら楽勝で登山道には明るいうちには出れる。
そして問題の最後の核心部の3連の滝の高巻き開始13:30 これを過ぎれば終わりが見える。
情報では左岸巻、少し登ってトラバース 下のワンピッチはザイルを出せばよいだろうとのこと。
1ピッチヌメ岩、2ピッチ泥壁トラバース、3、4ピッチ乾いたスラブ直登、5ピッチヌメ岩直登、6ピッチスラブ直登
どれも要ザイルのピッチ、支点は1cmの小枝をシュリンゲでまとめとる、30m以内で切らないとなので支点構築に時間にかかる。
目を凝らし探し登るもトラバースができるところが見つからない、どんどん上まで追い上げられる。
コースアウトしたのか?
しかし6ピッチからうえは藪、傾斜もなだらかになりザイルなしで稜線には行けそうである。
16時半 すでに幕営ができない沢に下降という選択肢はない、稜線から藪こぎで登山道に突破することを決定する。
親方達による北アルプス深夜の猛烈な藪漕ぎ話に、暗くても藪漕ぎならできるんだと勇気をもらい、しかしもしも岩場が出てしまったら、そこでビバークすると心に決める。
シャクナゲ、蔓、竹の猛烈な藪でなかなか進まなく心がたびたび折れそうになるが途中から開き直りこの状況を楽しむこととした。
22時登山道に到着、夜の登山道を通常コースタイムの倍をかけ2時に登山道無事到着しました。(嬉しかった~)

改めましてメンバーの皆様、お疲れさまでした。
藪漕ぎ計7時間、沢+高巻き計9時間、下山登山道4時間の累計20時間に及ぶ大変厳しい山行になりましたが、メンバー各々の日頃の鍛錬で培った体力、技術力に裏付けられた自信、そしてなによりお互いの信頼関係によりこの困難を乗り越え、全員無事に下山できたことを山行リーダーとしてメンバーに深く感謝し最後の結びとしたい思います。