雁ガ腹摺山で 袖摺りあう
〜笹子雁ガ腹摺山・米沢山・お坊山ハイク〜
人見 邦明
期 日 1996年12月1日(日) 天候 快晴
パーティ 村瀬みゆき 中村 優 人見 邦明
リーダー村瀬さんの命令で山行記を書くことになりました。入会のご挨拶代わりにお読み下さい。山梨県の笹子雁ガ腹摺山(1357m)の個人的なハイキング紀行です。
冬型の気圧配置で北日本は雪、東日本では晴天の予報。前夜に中村さんに会の山行に初参加したい旨お伝えしましたら、村瀬さんから連絡がきました。「明日ガンガハラスリを予定。高尾7:27、笹子8:31、遅刻したら置いて行く」その時分の私はいつものことながら酩酊状態でしたので、時刻のメモだけを取り「うぃ、よろひくお願いひましゅ」と目覚しセットしてダウンしました。
12月1日4時起床。いまだアルコールが抜けないが余裕をもって準備。紅茶をすすり朝刊に目を通しながら、卵を茹でます。リュックを持って6時前に家を出発しました。ローソンでアンパンにするかクリームパンにするかで悩み、これが命取りになりました。新宿駅に着き、中央線特快に乗ろうとホームに行くと目前でドアーが閉まりました。じゃあ次の電車を待てばいいと考えその場で時刻表を見て驚きました。
22分も待たないと次の特快が来ないのです。さらに高尾駅の接続表を見ると、さっきの特快でないとメモに書いた電車に間に合わないのです。それでも高尾に行くしかあんめー。高尾に着き「先程出た電車を追い抜く方法を教えて」と駅員に尋ねると、困った彼は「普通電車を普通の電車では追い越せません」と大変理解しやすい説明をしてくれました。八王子の駅員には「大月までスーパーあずさで行っても無理」とも言われました。ああ、なんてこったい。しかたなく次発8:00の甲府行に乗ったのでした。
電車の中で自分が情けなくなり、これからお世話になる方にも迷惑をかけるなあと反省しきりです。大月でひらめき途中下車、タクシーという手がありました。運転手に「ガンガハラスリ」と堂々と言ったら「お前さん、どこのハラスリだ」と聞かれ、ぎょっとしました。同じ名前の山がこの山域に3つもあるのです。ここはどこ、私は誰。どこへ行けばいいのでしょう。遅刻することなんて考えていないので地図も持参していません。事情を説明すると笹子雁ガ腹摺山であろうと判断でき、さらに予想されるコースも教えてもらい、ついでに大月市の観光マップまでいただきました。いやしくも登山家を志すもので、観光協会発行のイラスト付きマップでルート工作する人もいますまい。田舎の国道は渋滞もなく私は4730円を払いました。この足で追いつくしかありません。
9:15登山口から必死に頂上をめざしました。風は強いが快晴でなかなかの登山日和です。植林帯の急登をひーひーと歩きながら下りてくる人に、女性を含むパーティーと出合わなかったかと聞くと「20分前に行ったよ」との情報。山頂で休んでいれば会えるかも知れないと思いまた頑張りました。息が上がりゲロ寸前状態で足を動かすのでした。次第に富士が姿を見せるが、それをめでる余裕はありません。やっと反射板のある山頂に10:20到着。単独の写真男に「女性を含むパーティーは」と聞くがどうも要領を得ません。ひょっとして俺が先行しているのではと考えていると、間もなく見覚えのある村瀬さんとジャージの若者(編集者注
馬鹿者の間違えでは?)が登って来ました。さっそく初対面のご挨拶。陽気な若者(再び編集者注・・・と思うが?)中村さんであると紹介されました。会の月報を熟読していた私はこの若者(?)が「ナカムラJR」であることもすぐ判り、めでたく3人パーティーが作られました。この二人も待ち人来たらずやら登り口を迷うやらで時間ロスし、必死に登ってきたということです。感動的だなあと嬉しい気分になってパーティができあがりました。人見です。どうかよろしくお願いします。袖振りあうも他生の縁。「袖摺りあう」ともいいますが、摺りあうまでに私も村瀬隊も大変なのでした。そういえばここは雁が腹を摺る山でしたね。あらためて富士の雄姿を見、雪を被りつつある八ツの展望をたのしむことができました。
ここからは村瀬さんのリードで、ハイキング道の神髄を伝授して頂きました。富士を振り返りながら夢のような尾根歩き、鎖があっても決して掴まないで登る岩場、アップダウン2回。少しきついと思いましたが、私はやせ我慢して休憩を要求しませんでした。11:20米沢山着。コースタイムをかなり短縮でき、ここで昼食となりました。中村JR.がラーメン、村瀬がパン、私がにぎり飯。小春日和とはいえ寒くJR.氏は手がかじかみファスナーも閉められないようす、ために後に帽子を紛失してしまいました。枯れ葉を枕に昼寝している男を見るのはこちらも気持ち良いものです。
落ち葉を思い切り踏みしめ、乾燥した空気の中をかさこそ歩く晩秋ハイク。中村JR.さんはまだこの枯れた趣や死に至る静寂を理解したくないようですが、私と村瀬氏はいいと思いました。今日の最高地点お坊山(1421)を越えるとあとは枯れ葉と戯れて下山するだけです。心優しく穏やかに元気に、細胞の一つ一つに晩秋の日差しビタミンを浴びる山行となりました。軒先に大根やパンツが吊るしてある大和むらに出てきて現実に戻り、微かに色を残しモノトーンの冬を待つ山並みを見返してこの山旅も終わりました。すれ違いもありましたが結果オーライとしたいと思います。
2:30甲斐大和駅に着き、スーパードライで乾杯。はらはらしながらも、明るく静かな山歩きが満喫出来ました。有り難うございます。まあお誘い下さい。