平成8年度 冬合宿 北アルプス横尾尾根


期   日 1996年12月29日〜1997年1月2日
パーティー 岡田真也 水野二朗 大久保純 村瀬みゆき 中村 優 中村 孝

12月29日(快晴) 松本 ―― 坂巻温泉 ―― 上高地 ―― 横尾(タイム不明)
 河豚の鰭酒を大量に摂取した因果でヒレヒレになった大久保さんを含む北稜パ ーティー6名は、元気に? 坂巻温泉に到着した。風が寒いので、トンネル内でパッキングをするが、1名の所在が不明となる。
 釜トンは長い、と聞いていたが関電トンネルに比べたら何てことはない。重荷 に苦労しながらも大正池までくると、前方に朝日を浴びた明神から西穂高にかけての展望が開け絶景である。アマチュアカメラマンが大勢その景色に向けシャッ ターを切っていた。
 本日の夕食は入山祝いのすき焼き。この一式で6kgは越えるだろう。楽しみで はあるが、コイツが重さの元凶だ。夏の記憶では上高地〜明神は30分位だったが、1時間近くかかってしまい、こんなハズではと暗澹たる気持ちに襲われる。 それでも、良い天候と素晴らしい景色に恵まれ、どうにか足を前に進めることが 出来る。最後のカーブを回り込んで横尾のつり橋が見えた時は、本当に嬉しかっ た。
 横尾にはテントが3張り、冬期小屋にも数名いた。前穂のよく見えるサイトに 到着後「河豚鰭酒」をいただき、重かった1日がやっと終わった。今日はすき焼 きだ!!。

12月30日(快晴) 横尾(7:00) ―― 2のガリー ―― 尾根上 ―― CS
 気持ち良い朝を全員で迎え、快晴の横尾谷を詰める。途中で道を間違えてしま ったが、緩い勾配の山道を本谷橋へと進む。当初は3のガリーを詰める予定だっ たが、状態が悪くないので2のガリーを詰めることにする。トレースはガリーの 右側の尾根へと続いているが、我々はそのままガリーを詰めることにした。
 最初はつぼ足で歩いたが途中からワカンを履くことにする。春山のような気温 と腐った雪、そして部分的に氷化している傾斜の強い場所があるため、思うよう にピッチが捗らない。すぐ上にガリーが切れ青空が覗いているのだが、なかなか たどり着かない。結局、尾根に抜けるのに4時間以上かかってしまった。
 尾根に出ると末端からのトレースがあった。これで少しラクになると思ったが 、積雪が少ないので露岩が出ていて歩きにい。上からはワカンやマット、テント のポールが落ちてきて驚いた。
末端からのパーティーが現れたので、二朗さんヒレ男くんの2人が先行し、テ ントサイトを確保してもらう。槍ヶ岳がよく見え、風も避けられる良い場所を確 保してくれた2人に感謝し、お約束のアルコールを味わう。 (29、30日の記録 記 中村 孝 )

12月31日(快晴) CS(6:45) ―― 横尾の歯(10:00) ―― 稜線(12:30) ―― 中岳(13:30) ―― 天狗のコル(15:30) ―― 横尾の歯(16:30) ―― CS(17:50)
 4時起床。時間はかかりそうだが、テントを撤収しないので予定通りスープスパゲティの朝食にする。スパゲティ用の水とスープ用の水が必要なので、スープ スパはやはり不向きだったと反省。昨晩遅くまで飲んでいた岡田さんは食べられない。
 “アイゼンおそろい組”にサブザックを背負ってもらい、あとの3名は空荷で 出発。荷物がないとこんなにも楽か、と足どりは軽い。“横尾の歯”まで来てほ んの数メートル下る所でザイルを出し、懸垂下降をする。
 信じられないことだが今日で3日連続の快晴。風もほとんどなく寒くない。と ころが今日は岡田さんの調子が悪い。目まいがするらしく、しばしば立ち止まる 。そんな時は周囲の絶景を見わたす。涸沢がのぞき込め、北尾根から前穂、吊尾 根を経て奥穂、北穂、南岳、槍、白馬方面、八ヶ岳、遠くにボンヤリとだが富士 山も見えた。風がないので冬山のものすごさはないが、白く美しいたおやかな姿 がそこにある、という感じ。南岳の雪庇が盛り上がっていて、なぜかソフトクリ ームを食べたくなった。前に行くグループの姿が雪稜上に見え、(まだ、あんなに登のか)と、気が重くなる。
 ようやく、ようやく、稜線に出る。さすがに飛騨側から吹き付ける風は冷たく 、フードをひっぱり出す。稜線上を正面に見える槍に向って歩きはじめた時には 、うれしさでいっぱいになった。とうとう槍とほぼ対等の位置まで登って来られ たのだ。
 急に飛騨側からガスが湧き上って来て、中岳に着く頃にはあたり一面真っ白に なってしまう。もう時刻も1時30分。帰りが不安になった我々3人は“アイゼ ンおそろい組”にここから引き返すことを主張。即決定。
 気分もいくらか楽になり、少し下った所でツェルトを広げて暖かい紅茶を飲ん だのち、稜線を離れて天狗のコルまで来ると、なぜかまたきれいに晴れ上がり、 槍が夕日に照らされている。さっきのガスは、我々にもうここで引き返すようにとの合図だったか?ここでとてもきれいなものを見た。稜線を越えて吹き上げられたガスが逆光でピンクや紫や青に染まりながらたなびいている。中村さんが写 真に撮ったが、色は映っていなかった。
 「槍まで行ってきました!」と、うれしそうに言った単独行の村松さんに似た 人がうしろから下って来る。4:30にテントを出発したという。この人とはその後 大正池あたりまで、抜きつ抜かれつだった。
 登りはけっこう平気な雪稜も、下りとなるととても怖い。1歩1歩を慎重に置い てゆくと、緊張でとても疲れる。空荷で良かった !!。ザックを背負っていたら とてもじゃないがここまで来れない。雪のクライムダウンを初体験。足元を見る のが大変だがけっこうすべらない。が、時間がかかる。
 最後の残照の中、下降にまたザイルを出してなんとか無事に“横尾の歯”を抜けることが出来た。とうとう暗くなり、ヘッ電を出したら落としてしまい風に飛 ばされて、私のナショナルの一番安いヘッ電は新しく入れ替えた電池とともに横尾本谷右俣へ消えていたのだ。
 ようやくテントに帰り着いた時にはホントにホッとした。思えば12時間近くトイレにも行っていない。水がそれほどないのであまり飲めず、汗をたくさんかいた所為だ。
 今晩の夕食は豚汁。今日もまた具だくさんでおいしかった。本日は大みそか。 ところが尾根なのにテレビが映らず、紅白はラジオで聞く。大久保さんとJr.は 寝てしまったが11:30頃年越しそばを作ってたべた。なぜかとてもおいしかった 。
 テントの周囲で人が雪を踏む「ザクッ ザクッ」という音と気配を感じる。岡田さんが「テントの周りをグルグル歩き回るヘンな奴かいるんだ。ヒトじゃないけれどね。」と、気味悪いことを言う。やめて― !!
 トイレに行けなくなるぅ―― !!。 (31日の記録 記 村瀬みゆき)

1月1日(晴れのち曇り) CS(10:00) ―― 一のガリー(12:20) ―― 横尾(14:30) ―― 徳沢(15:20)
 昨日、比較的長時間行動したためか、起床したのはテント内も明るくなった7 時過ぎだった。10時に2日間露営したテン場を出発し、横尾へ向かう。横尾尾根は、登ってきた時は、それほど気にならなかったが、下り初めて部分的に悪いところがあり、2回ほどザイルを出してもらった。悪場の通過に時間を要し、今日中に下山する予定だったのだが上高地までと変更を余儀なくされた。荷を背負ってのクライムダウンに、殊のほか苦労させられる。
 12時過ぎ“一のガリー”の上部にようやく辿り着く。出発前は気温の高さを 考慮して、横尾尾根を末端まで下る予定だったが、ガリー上部は比較的雪が締ま っていることから、“一のガリー”を下ることとなった。下り始めて暫くすると 、残雪期のような軟雪となり、アイゼンにこびりついた雪団子をピッケルでたた き落としながら下り続ける。一気に下った結果、1時間弱で横尾に通ずる登山道 に着いた。
 ここまで来れば一安心とばかり、一息つく。ここからは平坦な道を延々と歩く のみである。横尾では行きの時には気づかなかった、大量の水が湧き出ており、 多分きれいな水をたらふく飲み、そして水筒を一杯に満たすことが出来た。さら に歩き続け、徳沢へ到着する。徳沢は多数のテントが張られ、賑やかだった。そ れに加え、小屋(徳沢園)が営業していることが、我々を興奮させた。春のような ポカポカ陽気のなかを行動してきた我々にとって、喉の渇きを癒してくれるビー ルとかいう飲み物にありつけることが、何よりも喜ばしいことであった。時刻は 3時を回っており、躊躇することなく上高地泊りを取り止め、まさに楽園という べきこの徳沢に幕営することとなった。
1月2日(小雪)徳沢(9:50) ―― 上高地 ―― 坂巻温泉(13:30)

 夜半より風雨が強まり、明け方から雪に変わる。天気が崩れたのは、入山した12 月29日以降、今日が初めてであった。行程が短時間であることから、今日も起 床は7時過ぎで、撤収し徳沢を出発したのは9:50であった。冬合宿も今日が最後 となると、うれしいような、寂しいような、何とも複雑な心境になる。歩きなが ら、松本で何を食べようかとか、今晩は乾いた布団の上で寝れるとか、明日から ラスト3日間の正月休みは何して過ごそうかとか、今年は反省会はないのかなと か、いろいろなことが頭をよぎった。
 明神、上高地で一休みをし、坂巻温泉到着したのは13:30ころであった。
 坂巻温泉では、待望の温泉に入ることが出来たが、屋内風呂はかなりの混雑で 、結局中村Jr.以外の男性4人は、雪の降るなか、露天風呂に入ることとなった。 この露天風呂が傑作で、温泉の駐車場の隣のほとんだ囲いの無いところにあった 。風呂から上がり、2台のタクシーに分乗して松本へ向かう。
松本では、旨いものをたらふく食い、ちょっと苦しかったが、とても幸せだっ た…。
4泊5日の今年の冬合宿は、こうして全員無事に終えることとなった。 (12日 の記録 記 大久保純)


感想 − 合宿を振り返って 大久保 純
結果として、今年度の冬合宿の最大目標であった槍ヶ岳へは登ることが出来な かった。これはとても残念なことである。結局は、パーティー全体の力不足以外 考えられないと思う。行程の面からは2日目(12月30日)、横尾尾根上のP5 付近に幕営する予定が(新人3名の未熟さも手伝って)P5よりかなり手前に幕営 せざるをえなかったこと、3日目の出発が定着だったにもかかわらず遅くなって しまった(7時)ことなどが原因と思われる。装備の面からは、結果論になってし まうが、特に食料に関して、旨いものにこだわり過ぎ、かなりの重量を担ぎ上げ る結果となってしまった。個人的には、特に冬の場合、スピーディーな行動を心 がけ、装備の軽量化を図ることが重要ではないかと思う。もちろん、それととも に、ボッカ力や悪場を迅速・確実に通過する技術などを高めておくことは必要で ある。
今回、数多くの冬山をこなしている先輩3名と41期生3名の計6名パーティ ーだったが、両者の間には依然として相当な力の差 ―― 冬山をこなす体力、ア イゼンワーク、クライムダウン、ザイルワーク、幕営技術などすべてにおいて ―― があることを痛感させられた。今回の悔しさを糧に、来年の冬合宿はより よいものにできたら、と思う。


平成8年度

冬季合宿報告書
東京北稜山岳会
1.期日 平成8年12月28日(土)〜平成9年1月2日(木)

2.参加者

分担 氏 名 性別 住 所  
CL 岡田 真也 練馬区  
SL 中村 孝 台東区  
SL装備 水野 二朗 品川区  
装備 大久保 純 流山市  
食糧 村瀬 みゆき 市川市  
記録 中村 優 川口市  






 

3.日程(詳細は別記)
12/28(土) 新宿23:50-<JR 急行アルプス信濃森上行>-
12/29(日) 松本-<マイクロ>-坂巻温泉--釜トンネル--上高地--横尾(CS)
12/30(月) (CS)--2ガリー--横尾尾根--P4手前(CS)
12/31(火) (CS)--中岳往復--(CS)
1/ 1(水) (CS)--1ガリー--横尾--徳沢(CS)
1/ 2(木) (CS)--徳沢--上高地--坂巻温泉--松本-<JR>-新宿(解散)

4.共同装備
テント6人用(本体ポール外張)
補修用具類(針金ガムテープ等)
救急薬品類
ラジオ・天気図用紙
スコップ2
ガソリンストーブ2(PEAK1/123R)
液晶TV
ガソリン5.5リットル
トランシーバー 144MHz/430MHz
ツェルト2
カメラ
雪用ビニール袋 数枚
ガスランタン
テルモス500cc 2
コッヘル 2
ザイル 9mm×40m
アイスバイル
たわし
ロックハーケン
スポンジ
メタ
ペンチ、ドライバー等
裁縫用具
コンロ下敷板
お玉菜箸キッチンタオル
5.個人装備(○は必携、△は任意)
シャツ○雨具△食器○筆記具○ズボン○目出帽○武器○健康保険証○予備シャ ツ○毛手○カップ△身分証○予備ズボン○替え手袋○ナイフ○手拭い等○ガスカ ートリッジ○オーバー手○ヘッ電○トレペ○防寒具(フリース等)○スパッツ○予 備電池2回分○シュラフ○銀マット○スパッツゴム予備○サングラス○シュラフ カバー○ガスストーブヘッド△登山靴○ゴーグル○個人用マット○下着○靴ひも 予備○時計○テントシューズ△替え下着上下○ザック○地図(2.5万槍ヶ岳)○テ ルモス△靴下○サブザック△地図(2.5万穂高岳)○カメラ,フィルム△替え靴下○ 水筒○地図(2.5万上高地)○わかん○ヤッケ上下○ポリタン○地図(20万高山)△ カラビナ(2〜3)△ライター○コンパス○ハーネス○ビニール袋○ピッケル○シュ リンゲ(2〜3)○スタッフバッグ○大型スタッフバッグ○アイゼン○8環○
6.食糧

日 付 献 立 荷揚者 日 付 献 立 荷揚者
12/29 B
 
おこのみ(駅弁・パン・おにぎり等) 各自
 
1/ 1 L
 
レーション4
 
各自
 
レーション1 各自 雑煮・おせち 中村優
すき焼き・ご飯 中村孝 1/ 2 B すいとん 村瀬
12/30 B うどん 村瀬 レーション5 各自

 
レーション2
 
各自
 
予備食D
 
ジフィーズ・シチュー 大久保
 
キムチ鍋・ご飯 大久保 予備食B お茶漬け 水野
12/31 B スープスパゲティ 水野 予備食L レーション6 各自
レーション3 各自 予備食D すいとん 中村孝

 
豚汁・ご飯、年越しそば 中村優
 
予備食B
 
ジフィーズ
 
岡田
 
1/ 1 B 雑炊 岡田 予備食L レーション7 各自
お茶類 コーヒー、紅茶、日本茶、ココア、クリーム 村瀬
調味料
 
醤油・塩・胡椒・一味唐辛子・だし・油・味噌・ふりかけ・砂糖(忘れた) 水野
 
液体防寒具   各自

※入山日の朝食及びレーション(7食分+非常食分)、液体防寒具は各自で準備 して持参。
7.概念図と行動の概略
12/28 新宿23:50発アルプス号で松本へ阿部さんが見送り
に来てくれる励ましの御言葉と豪華な差し入れを頂戴する 意識不明者1名を 出し乗車
12/29 04:12松本駅到着 松本駅より通称マイクロ(正式名
称ジャンボタクシー)で坂巻温泉トンネル内でパッキング上高地明神徳沢を経 て横尾へ慣れない重荷と昨夜の影響で予想外に時間がかかる横尾にて幕営
12/30 04:00起床07:00出発朝食は横尾谷を詰める岩小
屋で一本道を間違え屏風方面に数分行く岩小屋まで戻って再び詰める2のガリ ー下で一本雪は少ないが上部はクサっていてワッパ着用予想外に時間がかかる
重荷での行動は無理と判断しなるべく上まで行って幕営し明日は空身で槍ピス トンに予定を変更する稜線に出てからも重荷のために行程はかどらず尾根末端か らのパーティが増えたため二朗さんと大久保さん天場取りに先発P4手前で幕営
12/31 04:00起床BC出発時間は撤収がないために前日と起床を同じにしたが 出発時間はさほど変わらず横尾の歯あたり雪が例年になく少なく状態悪く通過困 難アプザイレンすること2回緊張が続くためにペースがあがらず中岳で13:30を 回ってしまい引き返す(今回の最高到達点3000m)何とか悪場は日没前に通過する ことができ17:50BC帰投
高温が続いたためと30日の2のガリーの雪の状態と合わせて考え明日は横尾尾 根末端まで尾根上を坂巻温泉まで下山することに変更
1/1 08:30起床下山天場付近からの下りでザイルを出すこと2回2のガリー下 降点ですでに12:00を回る1のガリ
ー下降点で踏み跡多数雪も少なく状態も良好なのでガリーを下降する途中踏み 跡が斜面を見事に横切ること2回緊張するが1時間少々で横尾本谷まで下降する ことができるここから横尾まで 分横尾で一本水場があって先日気付かなかった 流水ありすべての水筒に水を満たす(全量9l)徳沢到着ここで既に14:00を回って いて先に行くかどうか検討徳沢園冬季小屋に飲み物が売っていることが決め手と なり幕営
1/2 08:30起床最終日横尾から妙に御年輩の方々がひしめく上高地を経て坂巻 温泉へ坂巻温泉にて阿部さんに連絡
温泉を堪能する。マイクロは運転手がいないというので坂巻温泉に屯するタクシ ー2台に分乗松本へ松本で飽食し18:31発スーパーあずさで新宿へ新宿 : 解散

8.その他
・総消費酒量
カミュスペシャルリザーブ500cc河豚鰭酒多数ワイルドターキー750ccカティサ ーク1000ccフォアローゼス750ccローリングK1000cc大久保ラム1000cc村瀬中国 酒500ccJR焼酎数百cc川端バーボン750cc麦酒多数サントリーオールド360cc船口 菊水? 等
・拾得物
わかん
・落とし(そうになった)もの
ダンロップポール、わかん、マット、へっ電、テルモス