八甲田山・酸ヶ湯温泉湯治日記(1) 
                   中 村  孝

期  日 1999年3月29日(月)〜4月4日(日)  
メンバー 中村 孝、人見邦明(4/1〜4)
 

 今回で春の八甲田は4年連続になる。とは言っても、滑りたい場所はまだまだ沢山あり、一向に飽きが来ない。過去3回と違い今年は人見婦人部長も後ほど合流し、2人で遊ぶことができる。
 
3月29日 羽田(12:30)→青森空港(13:40/14:00)→青森駅(14:35/15:00)→
       酸ヶ湯温泉(16:15)
 
 一昨日にスキー、荷物などを宅急便で送っておいたのでサブザック1つという軽装で出かける。昨日からの天気予報では東北地方は大雪だと言っていたので飛行機が飛ぶか、例え飛んだとしても着陸不可で羽田に戻って来はしないか等とちょっと不安になる。
 
 心配は杞憂に終わり無事青森空港に着いたが、滑走路の周りは除雪した雪の固まりがいっぱい残っているし、雪も降っている。そのため、青森駅までのバスも普段より時間がかかってしまい、食料品の購入に差し支えるのではと心配になる。バスの発車時刻までの僅かな間に駅前の市場で米、肉、野菜、乾物、お酒を急いで買い込み、バス停に向かう。バス停に着いたのとバスが来たのはほぼ同時だった。
 
 以前バスの時刻に間に合わなくてタクシーを利用したときに「この辺は地獄の1丁目って言うんだ」とタクシーの女性運転手さんが教えてくれた辺りは確かに町中にも関わらず、猛吹雪だった。
 
 山の中に入ると例年以上の積雪であることを知った。(後で聞いたが八甲田・十和田ゴールドラインの雪壁の高さが今年は9mもあったそうだ)
 
 やっとこさ着いた酸ヶ湯温泉は相も変わらずデンと構えている。フロントに行くとどうやら私は近畿日本ツーリストにお金を払いすぎたらしいことが判明する。帰りに差額を返却してくれるとのこと。今から楽しみだ。
 
 荷物を取りに行くと荷物部屋の明かりが点くのに時間がかかる、と、「ここは山の中だから電気が来るのに時間がかかります。」などと小野さんというねーちゃんがボケをかましてくる。去年も見た顔だ。向こうも何となく覚えているらしい。
 
 夜になっても一向に雪は止まない。時々屋根に積もった雪がゴーという音とともに雪崩れる。明日は温泉三昧になりそうだ。まあ、1週間も居れば3日間位は遊べるだろう…、なんて考えながら打たせ湯の湯船にうつ伏せになり、幸福感で一杯の私であった。
 
3月30日(火) 大雨のち大雪
 起床(9時)→温泉→ご飯→ビール→昼寝→温泉→ビール→午睡→温泉→・・・と充実した1日であった。
 
3月31日(水) 雪
 今日も雪が降っているが、午後からは少し回復に向かうらしいので、昼前、勝手知ったる地獄沢から仙人岱ヒュッテまで行ってみる。登山口に着くと高校の山岳部らしきパーティーがちょうど降りてきたところに出会う。顧問の先生らしい人の話によると上はやはり風が強く吹雪いているらしい。でも、ヒュッテまでなら竹竿も打ってあるからどんなに天気が悪くても平気だろう、と板を付けシールを貼り、出発する。
 
 と、足が軽い軽い!そういえば、今シーズンから板、ビンディング、シールとも新品に変えたのであった。しかも、板は片足1kg強、ビンディングも片方で800gという超軽量のものである。昨年までのデュレの板にサレワのビンディングとは大違いだ。
 
 緩いブナの斜面をほぼ真東に進んでいくと約35分で地獄沢に出会し、これを詰めて行く。1年振りの八甲田である。見覚えのある風景が展開している。大岳環状ルートのオレンジ色の標識、地獄沢へ到着するまでの小沢、地獄沢下降点の大きな枯れ木、中間部のちょっと狭まった急傾斜の地点、上部の荒れ高山的な様相と吹き付ける風…、今年も、ここに再訪出来た喜びで一杯になる。
 
 仙人岱ヒュッテで久々に山に来たことなので大休止をとり、帰りのコースを検討する。数年前に1回だけ地獄沢を滑ったことがあるが、あまり快適ではなかったし天気も少し回復してきたので、硫黄岳に登りその南斜面を峠まで滑り降り、山腹を斜滑降で西北西方向にトラバースして酸ヶ湯に戻るコースに決める。
 
 登りは硫黄岳の北斜面にあたるので、昨日までの荒天によりガチガチのシュカブラ様になっていて、クトーがが欲しい箇所があった。20分位で山頂に到着。しばし、休息。南八甲田の櫛ケ岳の秀麗な姿に見とれる。
 
超快適なフォレストコース・ご満悦の中村(た)
 ビンディングを滑降モードに変え、鞍部目指してそろそろと滑り出す。なんったって、今年初のスキーなのだから。雪は重く曲がるのに苦労するが、適当にスピードがついたところで抜重すると、何とかパラレルが決まり嬉しくなる。スキーを停めてシュプールを眺めて満足!
 
 鞍部までの快適な滑降はあっ!という間に終了し酸ヶ湯までは灌木帯の斜滑降+トラバース。適当に木々の間隔が開いているので結構楽しく滑ることが出来た。途中で地獄沢に合流して…、と思ったが「八甲田ホテル」へのシュプールに入ってしまい、地獄沼の縁をトラバースして今日の行動を終える。
 



 湯煙 ほろ酔い 山スキー 八甲田パラダイス紀行                      人見 邦明
 
 中村さんと人見が4月1日から4日まで八甲田に山スキーに行かせてもらいました。テクニカルな記録は中村さんが報告するはずですので、私は雑駁な感想文を書きます。
 
 今回は天候にも恵まれ非常に、若者風にいえばチョーラッキィ、マジ楽しい山行となりました。一言で簡潔に表現すると、東北山域広大無辺環境最高兼雪質抜群爽快滑走後自由闊達生活及効用万能豊富温泉満喫満腹的禁酒禁煙無関係恣意放題快楽山旅となります。
 
 

八甲田・大岳環状ルート

素晴らしさその1は、なんといっても八甲田大岳を囲む山並みの広大な雪景色です。そこにどっぷりと浸り一人占めできる嬉しさ。二日目は雨のため停滞しましたが、3日目から天気も回復して4日目は晴天になりました。今年は残雪も多く新雪にも恵まれ、正真正銘の白銀の世界。ここまで登ってこられる脚力と技術を持ったものだけが許される地上の別天地なのです。神々しいまでのなだらかな雪面、そこに私たちは少しだけシュプールを刻むことが許されるのです。今思い出しただけでもチビッてしまう素敵さです。テメエのぶざまな姿はどうあれ、写真が楽しみです。
 
 楽しさその2は、やはりシールを外してからのスキー滑走の痛快さです。カチカチに凍った固い斜面をくねくねと自由に滑る爽快さにうっとりとしました。さらに林間コースに入るともっと楽しくなります。3日目に滑った八甲田温泉ルート、4日目の箒場岱ルートは、ブナ林の中の快適なコース。そこを思い切って直滑降で一気にダウンヒル。疲れてきて危なくなったら適当に急ターンを切って止まり、一息入れる。シビレルってこの瞬間をいう言葉でしょうか。中村が喜色満面で「楽しいね」と言うと、私も何と表現していいのか分からないから「楽しいね」とシンプルな形容詞しか発っせられません。最終日にはロープウェイで登りフォレストコースというゲレンデ滑走で締めくくりました。ターンもスピードも自由自在。これはもう形容不能の、くせになりそうなウヒウヒものです。

 

箒場岱ルート・はしゃぐ部長

 八甲田の素晴らしさその3はコース設定にあります。はるか青森、嫌な仕事も家族もすっかり忘れられます。過去に悲惨な遭難が起こった地だが、天候がよければ絶好の雪山となります。大岳を中心に色々なルートがありそこをバスで接続しています。標識の竹ザオのないコースでは、高度計と磁石を持つ師範に頼りきりでした。地図を見ながら、酒を片手に、明日のルートプランをたてることも楽しいことです。まだ見ぬバージンスノーをどう撫でまわしどう攻めるかと想像して、オジンの血は騒いじゃいました。
 
 楽しくもあり辛くもあったその4は、シールでの登行です。高額な山スキーセットを買ったのはいいが、なにせ私はこれが使い初めでした。靴の履き方は知っていましたが、流れ止めとシールの付け方が分かりません。初日、中村師範から丁寧に教えて頂いて早速歩行訓練に出掛けました。スキーの先を上げないで滑らせる。なるほど下に落ちないで登って行けます。3日目には急勾配とアイスバーンになった所で、中村師範から厳しい指導を受けました。背筋をきちって伸ばし板を雪面につけること。そうするとなんとか登って行けます。4日目には自分でも安定して登ることができた感じがします。それにしても山スキーは割に合わない遊び。汗だくで1時間登るとすると下りはせいぜい20分。登って行く持久力がなによりも求められる、山スキーははやり登山だと思いました。辛かったのは重い雪と深雪でターンが出来ないこと。両足で踏ん張るため、太股の筋肉が痛くなって来ました。登山の要素とスキー滑走の楽しさなりと、初心者のくせに山スキーの神髄を理解しちゃったのです。
 
 大暴れして汗をかいた後の嬉しさその5は、楽しい旅館ライフです。師範ご用達の酸ケ湯温泉は本当に嬉しくなる良心的かつ安価な旅館です。東北有数の、早くから国民温泉の指定を受けた混浴の大温泉男性の皆様は混浴ということに注目してはなりません。
湯気が立ち込め、視界が良くありません。霞んで見えるのは、青森なまりの年輩ご婦人のビヤ樽風ですからすこぶる安全、ご安心下さい。ギャル系及び現役ご婦人は男性オフリミットの時間帯に入浴するようです。混浴は別にしても、この温泉は素晴らしく立派な大浴場です。二日目は雨で停滞しましたが、私は都合三回も入浴しました。
隣部屋には何々新聞主催「温泉三昧の旅」の貼り紙がありましたが温泉好きにはたまらない宿です。

停滞日が続くなら、温泉に付け加え寝たきりぐい飲みという、人生究極のトリプルパラダイスが約束されます。
 
 さらに素晴らしさその6はこの宿の自炊システムです。一泊4千円と格安、6畳間にテレビ・冷蔵庫・ガスレンジ付きの個室。館内に食材とアルコールの売店があり、調理道具と食器もタダで借りられます。ここは農閑期の湯治場なのです。もっぱら中村部屋で自炊し、かつ適切に飲みました。我々を知る皆様は信じないかもしれませんが、酒量は本当に適正でした。米をといでご飯を炊くのが中村、調理は人見が担当しました。朝食は昨夜の残飯でおじや、昼は外食とレーション。夕食は肉野菜いため、肉じゃが、やき魚、と野菜サラダも作りリッチな食生活です。やはり俺たちは山男、合宿で鍛えた手際よさとワザがものを言いいます。中村6泊、人見3泊で1万円とかかりません。これでこの旅館経営が成り立つのか、フロントの可愛い女の子がリストラされないかとオジンはまたまた余計な心配をしてしまったのです。
 
 温泉に浸り山スキー、夜は傍若無人に飲み放題、ああこりゃこりゃ。ガッコのセンセーは春休みがあっていいなと言われればその通り。身の程もわきまえずジェット機で青森くんだりまで行き、しかも温泉に泊まって山スキーとはまさに豪勢なものです。私たちだけがと思うと、会員の皆様には済まない気もします。私たちのせめてものお裾分け、青森の地酒を集会でお飲みください。独身貴族中村はどうだか知りませんが、一つだけ言い訳を書かせてもらうと、私人見は三月は二日しか休みませんでした。一人でハイキングに一回行ったきりです。進級だ追試だと面倒な日々が続き、のんきな私には気が滅入る年度末、せめて三泊四日のオフがあってもいいのではないか、と自分自身で諌めています。
 
 4月4日午後5時。八甲田の山並みを見納めてから、青森空港の少し上品なレストランで食事をしていました。帰京したら明日から始業式準備。厳しい現実が待っています。二人ともどうしても無口になります。中村は4年連続定番のカツサンドに中生、人見はカツカレーと「ほろ酔いセット」の中生をとりました。食べ終わってからも時間があるので、来年も来てやるからなと心に念じてビールをお代わりしました。
 中村さん、ありがとうございました。そして八甲田、ありがとう。