湯煙 ほろ酔い 山スキー 八甲田パラダイス紀行 人見 邦明
中村さんと人見が4月1日から4日まで八甲田に山スキーに行かせてもらいました。テクニカルな記録は中村さんが報告するはずですので、私は雑駁な感想文を書きます。
今回は天候にも恵まれ非常に、若者風にいえばチョーラッキィ、マジ楽しい山行となりました。一言で簡潔に表現すると、東北山域広大無辺環境最高兼雪質抜群爽快滑走後自由闊達生活及効用万能豊富温泉満喫満腹的禁酒禁煙無関係恣意放題快楽山旅となります。
素晴らしさその1は、なんといっても八甲田大岳を囲む山並みの広大な雪景色です。そこにどっぷりと浸り一人占めできる嬉しさ。二日目は雨のため停滞しましたが、3日目から天気も回復して4日目は晴天になりました。今年は残雪も多く新雪にも恵まれ、正真正銘の白銀の世界。ここまで登ってこられる脚力と技術を持ったものだけが許される地上の別天地なのです。神々しいまでのなだらかな雪面、そこに私たちは少しだけシュプールを刻むことが許されるのです。今思い出しただけでもチビッてしまう素敵さです。テメエのぶざまな姿はどうあれ、写真が楽しみです。
楽しさその2は、やはりシールを外してからのスキー滑走の痛快さです。カチカチに凍った固い斜面をくねくねと自由に滑る爽快さにうっとりとしました。さらに林間コースに入るともっと楽しくなります。3日目に滑った八甲田温泉ルート、4日目の箒場岱ルートは、ブナ林の中の快適なコース。そこを思い切って直滑降で一気にダウンヒル。疲れてきて危なくなったら適当に急ターンを切って止まり、一息入れる。シビレルってこの瞬間をいう言葉でしょうか。中村が喜色満面で「楽しいね」と言うと、私も何と表現していいのか分からないから「楽しいね」とシンプルな形容詞しか発っせられません。最終日にはロープウェイで登りフォレストコースというゲレンデ滑走で締めくくりました。ターンもスピードも自由自在。これはもう形容不能の、くせになりそうなウヒウヒものです。
八甲田の素晴らしさその3はコース設定にあります。はるか青森、嫌な仕事も家族もすっかり忘れられます。過去に悲惨な遭難が起こった地だが、天候がよければ絶好の雪山となります。大岳を中心に色々なルートがありそこをバスで接続しています。標識の竹ザオのないコースでは、高度計と磁石を持つ師範に頼りきりでした。地図を見ながら、酒を片手に、明日のルートプランをたてることも楽しいことです。まだ見ぬバージンスノーをどう撫でまわしどう攻めるかと想像して、オジンの血は騒いじゃいました。
楽しくもあり辛くもあったその4は、シールでの登行です。高額な山スキーセットを買ったのはいいが、なにせ私はこれが使い初めでした。靴の履き方は知っていましたが、流れ止めとシールの付け方が分かりません。初日、中村師範から丁寧に教えて頂いて早速歩行訓練に出掛けました。スキーの先を上げないで滑らせる。なるほど下に落ちないで登って行けます。3日目には急勾配とアイスバーンになった所で、中村師範から厳しい指導を受けました。背筋をきちって伸ばし板を雪面につけること。そうするとなんとか登って行けます。4日目には自分でも安定して登ることができた感じがします。それにしても山スキーは割に合わない遊び。汗だくで1時間登るとすると下りはせいぜい20分。登って行く持久力がなによりも求められる、山スキーははやり登山だと思いました。辛かったのは重い雪と深雪でターンが出来ないこと。両足で踏ん張るため、太股の筋肉が痛くなって来ました。登山の要素とスキー滑走の楽しさなりと、初心者のくせに山スキーの神髄を理解しちゃったのです。
大暴れして汗をかいた後の嬉しさその5は、楽しい旅館ライフです。師範ご用達の酸ケ湯温泉は本当に嬉しくなる良心的かつ安価な旅館です。東北有数の、早くから国民温泉の指定を受けた混浴の大温泉。男性の皆様は混浴ということに注目してはなりません。
湯気が立ち込め、視界が良くありません。霞んで見えるのは、青森なまりの年輩ご婦人のビヤ樽風ですからすこぶる安全、ご安心下さい。ギャル系及び現役ご婦人は男性オフリミットの時間帯に入浴するようです。混浴は別にしても、この温泉は素晴らしく立派な大浴場です。二日目は雨で停滞しましたが、私は都合三回も入浴しました。
隣部屋には何々新聞主催「温泉三昧の旅」の貼り紙がありましたが温泉好きにはたまらない宿です。
停滞日が続くなら、温泉に付け加え寝たきりぐい飲みという、人生究極のトリプルパラダイスが約束されます。
さらに素晴らしさその6はこの宿の自炊システムです。一泊4千円と格安、6畳間にテレビ・冷蔵庫・ガスレンジ付きの個室。館内に食材とアルコールの売店があり、調理道具と食器もタダで借りられます。ここは農閑期の湯治場なのです。もっぱら中村部屋で自炊し、かつ適切に飲みました。我々を知る皆様は信じないかもしれませんが、酒量は本当に適正でした。米をといでご飯を炊くのが中村、調理は人見が担当しました。朝食は昨夜の残飯でおじや、昼は外食とレーション。夕食は肉野菜いため、肉じゃが、やき魚、と野菜サラダも作りリッチな食生活です。やはり俺たちは山男、合宿で鍛えた手際よさとワザがものを言いいます。中村6泊、人見3泊で1万円とかかりません。これでこの旅館経営が成り立つのか、フロントの可愛い女の子がリストラされないかとオジンはまたまた余計な心配をしてしまったのです。
温泉に浸り山スキー、夜は傍若無人に飲み放題、ああこりゃこりゃ。ガッコのセンセーは春休みがあっていいなと言われればその通り。身の程もわきまえずジェット機で青森くんだりまで行き、しかも温泉に泊まって山スキーとはまさに豪勢なものです。私たちだけがと思うと、会員の皆様には済まない気もします。私たちのせめてものお裾分け、青森の地酒を集会でお飲みください。独身貴族中村はどうだか知りませんが、一つだけ言い訳を書かせてもらうと、私人見は三月は二日しか休みませんでした。一人でハイキングに一回行ったきりです。進級だ追試だと面倒な日々が続き、のんきな私には気が滅入る年度末、せめて三泊四日のオフがあってもいいのではないか、と自分自身で諌めています。
4月4日午後5時。八甲田の山並みを見納めてから、青森空港の少し上品なレストランで食事をしていました。帰京したら明日から始業式準備。厳しい現実が待っています。二人ともどうしても無口になります。中村は4年連続定番のカツサンドに中生、人見はカツカレーと「ほろ酔いセット」の中生をとりました。食べ終わってからも時間があるので、来年も来てやるからなと心に念じてビールをお代わりしました。
中村さん、ありがとうございました。そして八甲田、ありがとう。