期日 5月4日〜6日 メンバー 中村孝 人見邦明
行程 4日 10時〜14時 鶴岡駅で合流 大平山荘からお浜神社(約1700メートル)往復 鳥海高原家族旅行村泊
5日 6時40分〜14時30分 鳥海林道から湯の台コースを経て行者岳(約2150メー トル)往復 秋田県鳥海町「しらかば荘」泊
6日 8時〜13時 祓川駐車場から祓川コースを経てから七高山(2229メートル)往復 15時30分鶴岡駅解散
果たしてこの山行が合宿と言えるのか。単なる雪山観光ではないのか。そういわれれば、少しばかりの引け目を感じるが、断じてこれは第一級の登山行動だと言いたい。旅館に泊まり温泉に浸かったことは事実だが、毎日がハードな登はん行動だった。思ってもみてください。雪の山はどうあがいても一歩一歩登って行くしかないのです。アイゼンを履こうが、板を着けようが、こと登るという行為においてはどれも同じなのです。
今年も中村師範と二人、東北の名峰に挑んだ。昨年までは坂井さんや阿部さんが参加したが、都合悪く二人だけの合宿になったのは残念である。中村がムーンライトえちごで鶴岡駅頭に降り、合宿がが始まった。まず初日は、手軽なお浜神社コースで足慣らし。大平山荘までは鳥海ブルーラインへ。前はあった料金所が今年はない。山荘前に駐車し、板をザックにくくりつけ、しばらくは車道をとぼとぼ歩く。小金持ちの中村、板がぴったり付く小型の専用ザックを新調している。
さて、雪の斜面を探して登り始める。シール歩行。どんなことがあってもテメエの足で歩くしかない。風もなく暑い熱い。30分もすると足は重く汗も噴き出し、Tシャツになる。カタカタ、ざっざっ、ひたすら歩を進める。反射板のある台地で一本をとる。象潟方面に目をやると田植えを待つ水田が鈍く輝き、その先には日本海が霞んでいる。この景色が鳥海だ。さらに赤い旗のコース沿いにもうひと頑張り、お浜につながる稜線にたどり着く。ここで板を脱ぎザックに付けて歩きお浜神社前着。さすがに連休とあって大勢のハイカーやスキーヤーが思い思いに休んでいる。
昼飯をとり、さあ、ここからがお楽しみ。スキーモードに入れザラメ雪を滑降する。なんといってもこれは楽しい。2時間歩行、滑り20分。あっという間のスキーだった。今日はこれでよしとしよう。
今晩のベースは「鳥海高原家旅行村」。親戚を通じて予約を入れてあった。ログキャビンで食事なし。格安で宿泊できた。夕食はすでに酒田市のデパートでとり、明日のレーションも仕入れ、さらにその前には「アポン西浜」という温泉で汗を流していた。ウィスキーでいい気持ちになるうちに眠ってしまう。
翌5日は本命の湯の台コースを攻める。5時起床、6時発。今日も絶好の晴天だ。車道に雪がふさがる所まで行き6時40分歩行開始。昨年よりは雪はかなり少なく歩行時間が短くなった。カタカタ、ざっざっ。50分ごとに休む。車道終点、滝の小屋、河原宿と高度を上げる。師範の急斜角に追いついて行けず人見の距離が次第に離れていく。今年は雪渓が途中で切れ、尾根部分がむき出しになっている。はえ松の藪をこぎ、別の雪渓に移る。再び気の遠くなるようなシール歩行。ざっざっ。
最後の雪渓をつめ、藪をこいで尾根伝いに歩いて行く。スキーを担ぎ、道なき低木の間や草付きを登ることも容易なことではない。6時間弱のアルバイトの末、やっと行者岳近くの外輪山の峰にたどり着く。風もなく暖かい岩の上で休み、やっと苦痛から解放された。お浜からの登山者がしきりに行き来している。
ガスがでてきて見えなくなると行けないので、分かりやすい雪渓まで夏道をたどる。大雪渓の上部に立ち身震いする。ついでに小便たれて、ブーツをきつく締め直す。スキーモード。いきり立つ気持ちを抑え、「さあ、これからショータイムだい」とにやり。やおら急斜面に身を躍らせターンを決めてみる。胸のすくようなシュプールで曲がり、さらに加速してターンを繰り返す。下からゆっくり上がってくる登山者の方にわざと近づいて鬱憤をはらす。見事な制動をかけて止まり、荒い呼吸を整える。頭の芯が空っぽになり、「わっはは、わっはは」と高笑い。うーん。これだ。中村が高度計を読む。「いけねえ、いけねえ、今の滑りで300メートルも下がっちゃった。ああもったいない」。
しかし、目もくらむようなスピード感も追求したい。おいしそうな斜面をどう食い尽くすのか、はたまた白く横たわるグラマーな鳥海女神をどういたぶるのか。始めはパラレルキッスで軽くかまし反応を見る。次はたおやかに盛り上がる斜面をローリングでなで回す。もう一つの丘もぐにゅと揉んでみる。この吐息を感じるともうたまらない。今度は肩口から柔らかな白い雪肌の愛らしい谷あたりを丁寧に舐め回す。たまらず喘ぎ声を発した女神の、柔和な傾斜面を高速ローリングで攻める。押し殺した嗚咽の風を感じ、さらに美女のほどよくくびれた腰の鞍部をめがけてこっちも必死だ。精神の高揚が生命の発露に昇華する。もうこうなったら行くしかない。こんもりとしたはえ松の茂みに向かい、怒り狂った我らは涎を垂らし、さらに速度を上げて最深部に強引なスピン、、(おっといけねえ、これ以上はやばい)。発狂するほどの爽快さに身を震わせ、遠く長い苦悩を解放しようと、興奮しつつご馳走を頂くのであった。
6時間をかけた湯の台コースも下部の古い腐った雪は、婆ばあと同じでうま味がなくなる。午後2時車に帰着する。案外早く終わったので、あれほど食べたのにもっとおかわりが欲しくなる。「もう一本いっとく」と聞けば「行く」というので、「あんたも好きね」と二人だけの衆議一決。鳥海山荘に行って電話番号を調べ当日予約を入れる。
秋田県鳥海町のベースは山菜料理「しらかば荘」、6時チェックイン。目の前の鳥海山荘のすばらしい風呂に浸かり、ビール。山うどの酢味噌あえ、わらびの天ぷら。ああ、こんな生活があっていいのか。酔いがまわり、9時を回るとウィスキーも尽きてぬくぬく布団にもぐり高いびき。ああ、こんな人生があっていいのだろうか。
最終日6日。6時起床7時半出発。祓川駐車場から8時シール歩行開始。今日も晴天の予報。暑すぎて一時オ−バーパンツを脱ぐが、風が出たのではき直す。ブーツをハイポジションにして最後の急登をひーひー登高し、11時15分七高山着。山頂付近にガスがかかり始めたので、ガスが切れたのを見計らってダウンヒル。思わずため息が漏れる。このルートを降りると連休も終わる。ガブリとおいしそうな斜面にかぶりつく。春山涼風涙腺刺激感覚、脚下弾丸列車的高速振動忍耐快楽、小便微量遺漏的爽快感全身貫流、過剰快適反省感傷的嗚咽発声寸前、嗚呼、鳥海山滑降神髄。
1時祓川帰着。荷物を整理し、春を待つぶな林の林道を下りる。新緑のグラデーションを楽しみながら山を下りる。象潟から7号線を南下。3時過ぎ鶴岡市の文下(ほおだし)食堂で中華そばを食べ、3時40分鶴岡駅で解散。お疲れさまでした。有り難うございました。