無名峰へ向かう登り。樹林をラッセル | 無名峰から阿弥陀岳方面を臨む |
阿弥陀岳の岩峰 | アイゼンと登攀具を装着 |
核心部のP3。岩稜のルンゼも雪に埋もれ雪壁登攀となった。確保するにも支点がとれないのでノーザイルで行動。足を滑らせたらどこまでも滑っていくだろう。緊張を強いられる雪面を、棟梁がルートを確実に伸ばしていく。替わった親方もリズミカルに小刻みにトレースを作っていく。細長くのびる雪壁が真っ青な空に突き上げている。無言でそれに挑んでいく。セカンドのニシノは、そのトレースをぶっ壊し、ステップを必死に作りながら追っていく。激しい息遣いを繰り返し、それでも頑張っている。ラストの部長は安定した足跡を律儀にたどるが、それでも足は重くスピードが出ない。緊張の連続に冷や汗とアドレナリンが噴き出し、喉はカラカラ、何度も生唾を飲み込み肩で息をつく。這々の体で核心部をクリアする。
P4なのか、P5なのかも分からないまま、棟梁についていくと平らな丸い雪原にひょいと出る。モンブランのピークに似ていた。14年前、スイス・イタリア国境の山頂で職場の同僚と抱き合い涙したことを思い出す。ぐっときて隊長に握手を求めていった。阿弥陀岳南稜。自分が伸ばしてきた苦闘のトレースが愛おしく見える。
労苦からの開放感。それが充実感に昇華するには下山路が意外によくない。へっぴり腰と後ろ向きで慎重に下りていく。雪崩が心配な中岳沢は駆け下りた。出発する頃、棟梁と親方が「(当初下山ルートに使う予定だった)御小屋尾根はトレースがなく時間がかかるから、行者小屋に下山」と判断していた。この話のとき、ニシノは内心狂喜していたという。登攀装備をはずし、口数も少なく美濃戸口へ歩いていった。
雪壁と化したP3の登り | 雪壁をラッセルする棟梁 |
P3最後の登り | P3のてっぺんから南アルプス方面を望む |
山頂まではあと一息 | 阿弥陀岳山頂に到着! |
厳冬期とはいえ好条件に恵まれました。覚悟はしていたものの、私にとっては最上級のラッセルに泣かされました。着実に登りきれる体力、適切なルートを見極められる判断力の重要さを再認識させられました。4人の個性が緩やかに絡みあい、支えあい、ハードだが楽しい冬山登山になりました。皆さんに感謝します。