四十八滝沢(アイスクライミング)
ミナト
期日:2012年1月28日〜29日
参加者:アベ(CL)、ホッシー、ミナト(記録)
1月28日
17:30テン場(宝鉱山バス停付近駐車場)
1月29日
6:00テン場発〜8:30大滝〜9:00枝沢アイストレ〜11:00トレ終了〜13:00テン場
1月28日
昨年よりアイスクライミングを始めたミナトとホッシーの為に、アベさんが今回のアイスクライミングを計画してくれた。行先は三つ峠の四十八滝沢。アイス初心者向きだというが、垂直の大滝や60m程度の氷の滑り台があるなかなか骨のある沢らしい。また、10年に1度の寒波襲来で、素晴らしい氷が期待できそうだとのことだ。
西陽のあたる西大宮駅に集合し、アベさんの車で四十八滝沢目指して出発。アベさんには朝・夕の食坦も引受けて下さり、何から何まで大変申し訳ありませんです。
高速を都留ICで降り、10分ぐらいでテン場の駐車場へ到着。アベさんはもっと先へ進みたかったらしいが、雪が深く4WDをもってしても進むことが出来ず、やむなく駐車場へUターン。夕食は、アサリ入りのキムチ鍋で、私が食したキムチ鍋の中でも最も旨いキムチ鍋でありました。なぜだか分かりませんが、アベさんはもう絶対に食坦はしないと言っておりました。しかし、そんなことは北稜の旨いもの好き連中が許すハズありません。北稜の皆さん、アベさんの料理は本当に美味しいですよ!皆でお願いして、また食坦してもらいましょう。
1月29日
4時半起床。これまた美味しいネギうどんを頂き、装備を整えヘッデンを点けて出発。1週間前に降った雪が30センチほど積もった沢沿いの林道をしばらく歩く。沢からは流れの音が大きく聞こえ、もしかしたら凍っていないのではないかと不安になる。
四十八滝沢沿いの登山道に入るとますます雪は深くなり、沢面が凍っていないことが確認できるようになる。落胆したアベさんから、「この雪が逆に保温効果となり結氷しないのだ」と教えていただいた。
最初に現れる初滝は、薄氷が申し訳程度に付く状態なのでパスし、さらに登山道を辿る。沢を横切る地点で登山道を離れ、大滝を目指し沢身を行く。大滝手前の小さな滑滝がかろうじて凍っており、初めてアイスアックスを使用するが、氷が薄く氷下の岩にはじかれてしまう。大滝が姿を現すが、遠目で見てもとても登れる状態でないことが分かる。大滝から上も変わらない状況だろうとの判断で、残念だが四十八滝沢のアイスクライミングは諦めることにする。
仕方がないので、登山道で三つ峠へ登頂でもするかと登山道に戻り少し進むと、枝沢に朝日にキラキラ輝く氷瀑を発見した。高さは10m位で、斜度もまあまあ、所々垂直の部分も見受けられ、初心者のトレーニングにはちょうど良い感じ。これはもう登るしかないでしょう。
ハーネス、ヘルメット、登攀具を身に付け、早速クライミング開始。我々初心者用にトップロープを設置するべく、まず、アベさんにリードで登ってもらう。ビレイはミナトが請負う。アベさんは氷瀑の正面真ん中から取付き、垂直の部分に突き当たると左にトラバースぎみにザイルを伸ばし、2本目のアイススクリューを決める。そこから直上し3本目のスクリューの設置を行う。そこの足場は氷が丸くハネ出しアイゼンのかかりが悪く、かろうじて左手のアックスで態勢を保持しながら右手1本で作業を行う状況であった。苦しい態勢でなんとかスクリューを設置し、それにカラビナを掛けようとした時に事故が発生した。左手のアックスが突然抜けてしまったのである。「抜けたー!落ちるー!!!」の驚声とともにアベさんが落下、ビレイのミナトは咄嗟に腰を目一杯落とし、右手はもちろん左手もロープを握り締め、必死に墜落を止める。2本目のスクリューが見事に役目を果たし、地面まであと1m足らずの地点でアベさんは止まった。
「大丈夫ですか!」「う〜ん、足をやっちゃったみたいだ。」落下中に左足を氷の段差にぶつけ、負傷してしまったようだ。「捻挫かなぁ。」とアベさんは言うが、かなり痛そうだ。すぐに下山する旨を伝えるが、「せっかく来たんだから、2〜3本登りなよ。オレは大丈夫だから」と言ってくださった。それに設置されたままのスクリューを回収しなければならないので、ミナトがリードで登ることになる。
2本目のスクリューまではトップロープ状態だが、そこから先はリードとなる。先程の光景が頭を過ぎり、怖さで体が硬直してしまう。打込んだアックスで飛散した氷の破片が唇を斬り血が流れ出すが、そんなことにかまってはいられない。3本目にロープを通し直上、4本目のスクリューをなんとか設置し滝の落ち口を乗り越すと、上は穏やかな氷の滑となっていた。適当な立木にロープをセットして、クライムダウン。その後、トップロープでホッシーとミナトはクライミングを楽しむことにする。
アベさんには申し訳ないが、トップロープでのアイスクライミングはとても楽しい。ミナトは、負傷し寝転がったままのアベさんにビレイをさせるという情け容赦ないことを強要する。そんな血も涙もない行為をよそに、キラキラ輝く氷にアックスを打込む自分のシルエットがとてもカッコイーと自己陶酔してしまう。ホッシーも同様で、しきりにポーズを決めては自分の写真を撮ってくれとアベさんにせがんでいた。本当にひどい後輩たちだ。
ホッシー2本、ミナトが1本登ったところで、クライミングギアを仕舞い下山を開始する。アベさんはかなり傷むらしく、時折立ち止まっては呻いている。「これは捻挫どころじゃないですね。もしかしたら骨折しているかもしれませんね。」と問うと、「そうかもな。」とアベさん。途中何度も背負うことを申し出るが、「絶対にイヤだ!」「おぶわれるぐらいなら死んだ方がマシだ!」と意地を張る。しかし、隙を見てザックを無理やり奪い取りホッシーに担がせた。
歩行困難な程の傷を負いながらも自力下山を絶対とし、シャンと背筋を伸ばし気力のみで黙々と歩くその後姿に、真の山男を感じた。この場に女性がいたなら10人中10人が惚れてしまったであろう、それほどカッコよかった。駐車場に着き車の運転を申し出るが、これも断られてしまう。本当にどこまでも頑固で、そしてカッコいいアベさんでありました。
今回の事故についてアベさんは、「20年ぶりのアイスクライミングですっかり氷の感触を忘れていた。それなのに、どのくらいアックスが利いているのか不確かなまま身を預けてしまった。たぶん大丈夫だろうとの過信がすべての原因だ。クライマーとして情けないことだ。」と反省しておられました。これはアイスクライミングだけでなく、すべての登山行為にいえることではないでしょうか。今回のこのアベさんの言葉を重く受け止め、過信せず絶対に事故を起こさないよう気を付けていきたいと思います。