今年、生まれて初めて沢登りを経験した。東京近郊で5ヶ所ほど遡行して、そのなかで「癒しよりも、滝登りが楽しい!」と思っていたが、初めて訪れた東北の癒しは、スケールが違っていた。私はすっかり癒し沢に魅了され虜になった。沢登りを1から教えていただき、遂には関東を飛び出し東北の沢まで連れてきてくれた今回のメンバーでもある沢狂のお二人には心より感謝している。
9月の3連休、関東以外の沢に行こうという話はしばらく前から盛り上がっていたのだが、1週間ほど前から予定日付近の天気予報がよくない。どうしようかという話がほぼ毎日メールでのやり取りで繰り返された。だから当日までただただ楽しみにしていたというわけではなく、どちらかといえば不安や心配が大きかった。気持ちはもちろん全員一致で「行きたい!」。でも高い交通費を払って行っても遡行ができなかったら…。折角の癒し系沢もどんよりとした天気だったら…と。あまり淡い期待をしてはいけないと各々言い聞かせていたように思う。しかし日が近づくにつれて予報はいくらかよい方向に向かいバスのキャンセル料が上がってしまう出発の2日前に決行することにした。その後も予報は少しずつ好転し、結局今回の計画中は終始快晴で天気にも恵まれたのだった。
9月14日(金)この日、私は午後に仕事で打合せがあったのだが、上の空だったような気がする。夜には高速バスに乗って岩手県に向かうのだ。準備がまだ終わっていない。帰りにスーパーであれとあれを買って、帰ったらそれとあれをザックに入れて、一時にシャワー浴びて、一時に家を出れば間に合うな…と頭の中でシミュレーションを繰り返す。打合せが終わり、飲みに誘われたが「岩手に行くので失礼しまーす」と早々にエスケープ。サラリーマンとしてはどうなのだろうかと少し思ったが、会社のことは、休み明けにでも考えたらよいと飛び出した。シミュレーションどおりに家を出て、新宿駅には早めに到着したので、コクーンタワーを下からしばらく見上げたりなどしながらゆっくり集合場所に向かうと既にハギさん、つりしさんは到着していた。つりしさんは、到着の遅い私を心配してくれていたようだ。(といっても、バスの受付開始までまだ10分以上あったのだが…)申し訳ないことをした。受付を済ませてバスに乗り込む、4列シートのバスで我々は後ろから2列目で横並びだった。バスの足元はいくらか広かったが暑くて寝苦しかった。まわりの人達も皆暑そうにしていたように感じたが、後ろに座っている女性が寒いと強く主張していた。
途中高速道路で工事渋滞があり、予定より1時間程遅れて盛岡駅に到着。駅のバスが到着した側はなんだか物寂しいが、目に付いた牛丼チェーン店で朝食を食べて、コンビニで買い物をして、ハギさんが事前に調べておいてくれたタクシーを呼んだ。呼んだタクシーは、5000円を越えた金額については半額という珍しいサービスを行っていて、葛根田地熱発電所までの9200円が{5000+(9200-5000)/2}=7100円だった。
タクシーを降りると、すぐに入渓できる準備をして、発電所のゲートを越えて、所々白い湯気を出している大きなパイプ沿いに進む。30分ほど歩いたところで川へ下りてみる。しばらく河原歩き。2〜3ヶ所堰堤がありタラップを使って上り下りした。穏やかな流れの葛根田川に少しずつ入ってみる。曖昧だが10時頃から入渓。なんだかずいぶん水量が少なそうだ。そういえば、タクシーの運転手も今年は全然雨が降らなくて困っているようなことを言っていた。
穏やかで綺麗だなと思いながら、地形図を見て進む。事前調査でまずは左岸に大ベコ沢の滝、10m滝、そしてお函というゴルジュを抜けるはずなのだが、地形図と見比べて「うーむ、むむむ…」と唸る。あまりにも水量が少なく抱いていたイメージと違っていて通り過ぎたようだ。あれがそうだったのか、と思い出してみてもしっくりこなかったが、引き続き地形図を確認しながら先に進む。時々必要だったり、必要ではなかったりのへつりをしながら進む。所々深い釜があったが、暖かいし、水も綺麗だから落ちてもよいかな(泳げないけど…)と思ってのへつりは楽しい。枝沢もとても綺麗でそちらにも行ってみたくなる。
川幅の狭くなったところで、逆岸まで飛び越えられるかな、と眺めていると、つりしさんが「大丈夫だよ、跳んじゃいなよ」というので飛び越えると、「そんなに本気で跳んじゃうのー」などと言いながら、つりしさんとハギさんの二人は先に進みもっと幅の狭くなったところで仲良く越えてきたので、妬けた。そんなワイワイも今回の3人だと楽しくて好きだ。
水が少ない葛根田川 | 跳べるかな・・・ |
こちらの方が楽そう | 綺麗な渓相が続きます |
13時頃、葛根田大滝に着く。近くまで行って、これはさすがに登れないなということをいちおう確認、眺めてから、踏み跡のしっかりある左岸を巻いた。
本日の幕営予定地である北ノ又沢と滝ノ又沢の出合いに到着。事前の調査どおりに平らでテントを張りやすいスペースがある。しかし近づくと当然のように複数の焚き火跡や魚の死骸などがあり、ずいぶんと人くさいところではあったが、まだ先は長く、寝心地を優先して設営。それよりも早く晩飯の食材を調達しなくてはならない。
本日は、つりしさん発案、背水の陣メニューで釣った岩魚のフライなのだが、この辺りはさっきからあまり魚を見かけない。さっさと薪を集めて、早速釣りに取り掛かる。経験のない自分は簡単に説明を受けるが何もする前から枝に竿を引掛けてしまい、短い方の竿と交換してもらう。つりしさんはさっさと別の方へ行ってしまった。餌はしばらく前から集めた虫で、バッタでもトンボでも蛾でもなんでもよいと言われたが、捕まえた虫を針に刺さなければいけないことを考えると捕まえるときから既に躊躇してしまった。それでもなんとかバッタや蛾などを捕まえていたのだが、いよいよとなると針に刺すのはかなり戸惑った。ようやくバッタをつけて竿を振るが思うようにいかない。それでもなんとか川の中に落とすと引き上げるときになんだか少し重たい。あれ?と思いながら上げると小さい岩魚がかかっていた。餌をつける時間に比べるとあっという間の出来事で一緒にいたハギさんとどうしてよいかわからず、そのままつりしさんの元に向かう。「おーい、釣れたんだけどどうしたらよいですかー」と言いながら近寄ると「静かに」と注意される。釣りのときは静かにしないといけないらしいよとハギさんから教わる。どこまでも素人な自分。釣れた魚はあまりにも小さかったために逃がした。さよなら、俺の第一号と見送るとあっという間に元気よく泳ぎ去っていたった。そして再び憂鬱な餌付けだ。次は蛾に挑戦する。羽をむしることなど知らず、針を刺しても飛ぶ蛾を苦労してなんとか川に沈める。蛾はすぐに弱ったが継続、しばらくするといなくなっていた。命を弄んだような罪悪感を覚えながら、あとはハギさんが捕まえたバッタが数匹、全く慣れない。1匹つけて再び竿を振りながら上流へと進む。滝の音が聞こえたところで先の方に焚き火が見えたので引き返すことにした。釣れる気配なく、(虫は苦手なんだよな、もうこのまま下っていって終わりでいーや、いやいや釣れてないではないか、でもきっとつりしさんが釣ってくれている…)などと考え事をしていると、また木の枝に糸を引っ掛けてしまった。ハギさんに竿を持っていてもらって、木まで行き、糸を外す。ちょうどその足元に小さな釜があったのでそのまま糸を持って落としてみると、なんと岩魚がかかった!しかもさっきのより大きくて、これなら食べられそうだ。竿を持っているハギさんとオロオロと袋にでも入れようとしていると、自分の痛恨のミスで逃がしてしまった。そのあとは釣れず、幕営地に戻ると火が上がっている。成果を聞くとつりしさんも釣れなかったとのこと。
逃がしてしまった第二号が悔やまれるが、明日に期待して、今日と明日のメニューを入れ替える。自分の用意した夕食は簡単なものだったが、ハギさんの持ってきた朴葉味噌やつりしさんの持ってきたいつもの塊ベーコン(笑)で豪華になった。つりしさんの荷物は、タクシーのトランクから下ろすときにあれ?なんだか重たいなとは思っていたのだが、ビール3本、味噌、醤油、ネギ、ミョウガ、ニンニク、次の日に頂いたソーメンなどずいぶんと入っていた。3人で楽しく宴会をしていて、ふっと空を見上げると星が見えている。心配していた天気だが、明日も大丈夫そうだと期待する。テントはハギさんの個人テントで二人用なのだが荷物をほとんど外に出していたので3人でも狭く感じることはなく平らで快適だった。自分は寒いかなと思い防寒対策をしてきていたのだが不要で暖かかった。
9月16日、昨夜の焚き火場所でささっと火を起こして、ハギさんの朝食を美味しく頂き準備をする。自分は、沢の連泊は初めてで、こうして焚き火で朝食を食べて、丸1日沢を遡行して、そのまま今夜もテント泊だと考えると胸が踊った。手を伸ばせば水に届く快適な幕営地だったので、準備が終わると1秒で入渓。昨日岩魚が釣れた場所を確認しながら進むと、焚き火が見えたところにはまだ人がいて挨拶。一人で来ていた釣り師だった。音だけ聞いていた滝は3mくらいで半分眠っている体でも登れた。
その上の綺麗なナメを歩いていて、水の中をよく見ると小さなサンショウウオがたくさんいた。北ノ又沢の詰めはそんなに厳しいことなく、八屋瀬森山荘のやや東側の登山道に出た。山荘の前で少し休憩してから、脇の水場から草原を抜けて関東沢の下降に入る。ナメと小さな釜の連続で歩くたびに数匹の岩魚が足元を走り、とても気持ちがよかった。数名の釣り師に会い情報交換。今日は数パーティーが入っていて、中でも6名パーティーが我々の候補地の1つでもある三俣周辺に幕営予定らしいので、その付近は避けたいとなった。つりしさんは関東沢下降中に「今日はマニアックなテンバが良いな」と言っていた。同感!そこで本日中に今回の計画での核心、ナイアガラの滝を越えて、その先を幕営地とすることにして、先に進んだ。大深沢出合まで下りていくと、おやつにつりしさんが用意してくれたソーメンを頂く。3人分で8束ほどあり、おやつというより、しっかり昼食だ。2回に分けて茹でる。薬味もたっぷりあって美味い!沢で食べるソーメンの味は格別だ。満足して、進む。
まもなくナイアガラの滝は突然現れる。高さは10mほどだが、自分が今まで登った滝の中では横幅が一番大きい。ざっと見て中央の沢筋が登れるかなと眺めていると、つりしさんが「あの左側にあるロープを無視したとしたら、どこが登りやすいと思う?」と聞いてきたので、(えっ!左側にロープ?あっ、本当だ、全然気付かなかった…というのを悟られないように)眺めていた中央の沢筋を示すと、同意してくれて、自分にリードを譲ってくれた。少し怖くて緊張したが、それよりもウキウキワクワクしてアドレナリン出まくりだったと思う。ロープを結んで登り始める。取りつきが少し滑ったのでドキッとしたがそれ以降は易しくて、幅の広い滝の真ん中を登るのはなんとも快適だった。乗り越してロープをフィックス、笛を吹いてしばらくしてから見に行くとつりしさんがすいすい登ってくるのが見えた。続いてハギさんはエイト環で確保した。見ることはできなかったがテンションがかかることもなくすいすいとロープを引いた。ハギさんが登っているときに、つりしさんが色々アドバイスをしていたが、あとで「下に滝の上からでも見えるくらいの大きな岩魚がいたんだよ」と嬉しそうに言っていたので、目線はどこを見ていたのか怪しい。存分に楽しんだが時間はそんなにかからなかったと思う。まぁ合格点ではないだろうかと自己評価。この調子ならトップを任される日も近いかもしれない。
ナイアガラの滝を越えた先は川幅が広くなったり狭くなったりとしていて、狭いところでは流れがかなり速くなっている。滝を越えてすぐのところは右側で川幅が狭くなっていって、左側を歩けば普通に歩けるのでハギさんは賢明な判断で当然そちらを歩いたのだが、自分は遊び心で左岸をへつると、所々滑る!すぐ脇では凄い勢いで水が流れていてなかなかの迫力。なんとか進む。楽しくて仕方がない。うっかり自分の後ろをついてきてしまったつりしさんはフェルトではなくラバーのソールなので自分以上に滑る。「なんでこんなとこ行くんだよ」と怒っていた。前言撤回、トップを任されることは当分なさそうだ。
ナイアガラの滝 | ナイアガラの滝の上 |
三俣股付近はやはり人が多かった。三俣で北ノ沢に入るところは、少しわかりづらかったが、入って進み、その先に本日の幕営地を求める。平らそうな草むらを見つけて上がる。草を踏みつけて整地して、本日の寝床に決定。木にロープを結んで濡れたものを干す。あれ?焚き火はどこでやるのかと思って尋ねると、対岸によい場所があったとのこと。本日は寝る場所と食べる場所が川を挟んだ対岸だ、面白い。
しかしつりしさんはそれよりも魚だとさっさっと準備を進める。関東沢ではあんなに岩魚がいたのに、この辺りではめっきり見かけない。それどころか餌となるバッタやトンボも全然いない。ハギさんが薪を集めておいてくれるとのことで、自分も竿を持ってつりしさんに続く。餌にする川虫を石をひっくり返して探す。捕まえたものをつりしさんに見せてもらったがかなり小さな虫でなかなか見つけることができない。なんとか数匹捕獲できて、針に刺そうとするがあまりの小ささに苦戦して、ようやくついたと思って川に投げ入れるとすぐに外れていなくなってしまい、自分は早々に心が折れてしまった。しかし、つりしさんは、さすがで2匹釣り上げた。夕方になり日も少し傾いてきたので、それをもって幕営地に戻ると既にハギさんが起こしておいてくれた火が上がっている。早速つりしさんが調理に取り掛かる。沢登りで岩魚を食べるのが初めてだった私に貴重な岩魚の卵や白子を優先的に進めてくれたので、頂くととても美味しかった。これは滅多に食べられない珍味だ。身をぶつ切りにしてから揚げに、頭はじっくりじっくり焼いて骨酒に。岩魚・山女といえば、塩焼きが定番でから揚げは食べたことがなかったが、物凄く美味かった。あまりに美味しくて、一人2〜3匹はぺろりと食べられそうだと思ったがこの貴重さがより味を演出しているのかもしれない。本日は、生米持ち寄りだったのでそれを炊いた。焚き火での炊きたての米はそれだけで美味しくて、薬味を混ぜた味噌だけで十分だったが、カレーはあったらあったでやはり美味しかった。焚き火とともに緩やかで優雅な時間を3人で過ごした。
寝床は対岸なので川を渡って、テントに入る。シュラフカバーに入ると、頭の中で、今日1日のことが再生された。3人とも共通した感想だったのが、昨日有名な葛根田川入り、やはり綺麗でよかったが、本日の大深沢遡行は美しさ、楽しさで昨日をさらに上回っていた。歩くごとに足のすぐ近くを走る岩魚やトップで登ったナイアガラの滝を思い出しながら、一人暗闇の中でにやにやしてしまい、「今日はなんと完璧な日だったのだろう」と思いながら眠りについた。
9月17日、最終日、目を覚まして、朝食のためにまた川を渡る。水の冷たさに目が覚める。2日連続でハギさんのつくってくれる朝食を美味しく頂いて、前日と同じく準備ができたら、1秒入渓。本日は最後の詰めで薮漕ぎがあることは確定している。問題は、ハギさんの事前調査によると、ネットでの記録に30分から2時間と時間に開きがあるとのことで、読図・ルート選択が重要になりそうだ。水は徐々に少なくなり、3時間ほどの遡行で楽しかった沢登りはそろそろと終わる。地形図を見ると沢筋を外れて薮に突っ込まなければいけないのだが、細々と水は枯れることなく流れている。この流れは山頂側からきていて、我々が目指すのは、この山頂よりやや北側の登山道なので、あまり南側に行かないように様子を見ながら、もう少し沢沿いを進んだ。結果からいうと、少し沢沿いに進みすぎて、やや山頂側に行き過ぎてしまったようだ。
さすがにそろそろ南側に行き過ぎているだろうと意を決して、薮に突っ込む。先頭はつりしさんで薮をどんどん漕いで行くが、笹はつりしさんの背丈より高く苦戦を強いられる。登山道までなるべく最短距離で進めるよう常にコンパスで方角を確認しながら進む。薮漕ぎが初めての自分にとっては、なかなか大変だが楽しい経験だ。しかし、時々笹が顔に向かってきて、痛かったり、目の近くだとドキリとした。誕生日に友人からもらった熊鈴はどこかに紛失してしまっていた。途中で交代を申し出て先頭を努めてみるとわざとではなかったのだが間もなく登山道に出た。登山道に出た瞬間は、気分がスッと晴れやかだった。先頭は特に格別だ。
高低差がない薮漕ぎは見定め辛い | 沢の余韻に浸りながら下山 |
そこからぶつかった登山道のどちらに進むか少し迷ったが右側に進み、原太ヶ岳山頂に登った。1000m程度の山だが、見晴らしがよくて、沢〜藪の後では新鮮な気持ちで記念撮影を何枚か撮った。天気は徐々に下り坂で他の登山者かはいないかと思われたが、いくつかの数名ずつのパーティーに会った。
あとはそこから下のほうに見える発電所に向かって、ひたすら下山。途中大きな木の実を興味本位で拾ってみたりしながら、1.5時間程度で無事下山。温泉に向かう。松川温泉は500円で雰囲気も湯もよかったが洗い場の蛇口から湯が出ないことには初め戸惑った。また、壮絶な薮漕ぎで3人とも腰や背中に葉を大量につけていたことに気付かず、男女それぞれの脱衣所にぶちまけてしまった。(湯船にぶちまけた人も?)風呂上り少しゆっくりして、バスで盛岡の駅に向かう。まず新幹線の席を押さえに窓口に向かうと指定席しかない新幹線でしばらく満席だった。やむを得ず少し遅い時間のチケットを買って、食事に向かう。やはり盛岡冷麺が食べたいと思い、焼肉屋風の店に入って宴会。「よい沢だったね」「岩魚美味しかったね」「天気よかったね」と大満足の今回の旅に一同口元は緩みっぱなしだった。
今回の沢登りでは本当に癒された。現代人は疲れているらしく、しばらく前からやたらに『癒し』という言葉をよく耳にするようになった。癒し、癒し系とあまりによく目にすると天邪鬼な自分は、癒しを求めるなんてなんだか卑しいと思って、避けるようになった。しかし今年始めた沢登りは、山に囲まれ、美しいナメを見て、マイナスイオンを感じて、でもそれだけではなく、気を抜けば転んだり足を滑らせて痛い思いをする。滝を登るときやへつり、高巻きのときは、緊張感で息苦しくなるときもあるし、楽しくて疲れも忘れてつい口元が緩んでしまうときもある。薮漕ぎを経験したのは今回が初めてだったが、最後の詰めは、いつも汗だく。そうやって、手も足も頭も心もとにかく全身を使って、山の中に在り続けようすることで気付けば自然に癒されて、気持ちがとても清々しくなっているのが沢の魅力だと思う。今回の葛根田〜大深沢では特にそれを強く体感することができた。もちろんそれは一緒に行くメンバーも大事なファクターなのかもしれないが。
なんだかんだといっても2泊でやはり身体は疲れていたらしく、帰りの新幹線でウトウトしながら、しばらくしてふっと見ると、つりしさんは今回の地形図を広げて手に持ったまま眠っている。ハギさんも同じようにスナック菓子を抱えたまま眠っている。(さっきあんなに食べたのに…)そんな二人を見てまた癒されてしまった。