黒部川上ノ廊下

【日程】2019年9月12-16日
【メンバー】コバ(L)、うえ、つかみ(記)
【コースタイム】
9/11 新宿発(さわやか信州号)23:10
9/12 扇沢着5:30(電気バス)発7:30→ 黒部ダム着7:50~平の小屋11:30~平の渡し発12:00~対岸着12:10~奥黒部ヒュッテ14:20(幕営)
9/13 奥黒部ヒュッテ発6:05~口元のタル8:15~スゴ沢12:50~金作谷14:35(幕営)
9/14 金作谷発6:00~岩苔小谷12:40~立石奇岩12:55~B沢16:15~薬師沢小屋17:30
9/15 薬師沢小屋~赤木沢~太郎平小屋~薬師峠(幕営)
9/16 薬師峠~太郎平小屋~折立(タクシー)→富山駅→東京

後は、天気だけでした。天気さえもってくれれば、完全遡行できる!
ここまでくるのに、たくさんの時間を要しました。たんに私が、覚えが悪いと言うのも一応にありますが、今でかつてないほど記録を読み、まとめ、試行錯誤で装備整えました。
三人そろっての練習は、新潟県にある早出川中杉川に行きました。更に、個々にトレーニングを重ねていきました。
やることはやった、後は、天気だけ。晴れて増水してなければ、行ける!
運よく願いは叶い、全行程終日晴れ、無事完全遡行出来ました。それも計画より一日はやく。
しかしながら、簡単に遡行出来たわけではありません。やはり厳しい所です。恐怖で足がすくんだり、水流にながされ息ができなかったりと、波乱の連続でした。
入渓前に、倒木に足を滑らせのけ反るように転倒。グッギ!と何かが切れるような音がしました。2~3分位固まりましたが大丈夫そうだと、不安はありましたが沢に入って行きました。その時は靭帯を損傷したとは思いもせず、冷たい沢の水がとても心地よかったのを覚えています。痛みは当日より2日目、3日目と徐々に現れて行きましたが、気が張っていたせいかどうにか下山に至りました。よく頑張ってくれた足に感謝です。

扇沢

新宿より深夜バスにて、ここ扇沢に到着です。ここから黒部ダムまでトロリーバスで向かいます。始発に乗るべく切符売り場の先頭に並びます。売り場窓口が、開かない箇所がありましたので注意です。そして時期によって始発のバス時刻が異なりますので、確認が必要です。切符を購入したら、乗り場は2階になります。今回私たちの始発の出発は7時半でした。

黒部ダム

堰堤

丸太の橋

15分ぐらいの乗車で黒部ダムに到着します。黒部ダムから堰堤を渡り、平の小屋まで湖岸歩きが続きます。丸太の橋や階段がたくさんありますが、比較的整備されており歩きやすいです。しかし、ザックの荷が重く汗をかきながらのアップダウン。10時の渡し船を目指していましたが、間に合いそうもないので途中からゆっくり向かいます。
約3時間半歩き、平の小屋に到着しました。

渡し船

平の小屋から少し降りた場所から乗車。対岸まで10分弱で到着。関西電力が運営しており無料で乗車できます。運行時刻は季節によって異なります。私たちは12時発の船に乗りました。

長い階段

奥黒部ヒュッテ、テン場

渡し船の対岸から、また湖岸歩きが続きます。長い階段なども現れ、汗をかきながら進み、2時間強で奥黒部ヒュッテに到着しました。
小屋のご主人に廊下の様子を尋ねました。前日に大雨が降ったとのことです。安心できる言葉を期待していましたが、濁し言葉から厳しい様子が伝わり、より一層気が引き締まりました。
テン場と小屋は目と鼻の先、水場は小屋の脇にあります。24時間利用できます。

東沢出合

へつり

9月13日。いよいよ上ノ廊下へ入渓。テン場から10分弱で東沢出合にでます。前日に偵察に行きましたが、若干水量がすくなくなっている様子かなと・・(想いたい)。
入渓してすぐに徒渉が始まりました。リーダーが先頭に渡り、同じラインをウエちゃんとスクラムを組み渡って行きました。徒渉したり、へつったりしながら、進みます。東沢出合から1時間程進むと、熊ノ沢出合手前左岸にいいテン場がありました。
その後進むこと2時間程で、口元のタル沢。いよいよ、一番の核心部、口元のタルに突入します。

口元のタル突入

へつる

まず、リーダーが右岸をへつりから泳ぎました。水流は左岸方面から右岸にぶつかるようにながれていたので、右岸の壁と水流の間に体をねじ込んで行きました。ねじ込んだ先には水流が壁沿いに若干上流に向かって巻いてあったので、それに乗って進み突破しました。
フォローの私たちは、一緒に連なってロープで引き上げてもらいました。
泳ぎながらの突破が4~5回あり、3時間弱あまりでようやく抜けました。
記録やガイド本には突破方法が記されていますが、現地判断が主です。リーダーの判断が危険を左右します。この日の水量や水圧は過去の記録と比べることは難しく、無事越せたのは間違いなくリーダーの的確な判断のお蔭でした。

流された現場

口元のタルを無事に超えたと安心する間もなく、ゴルジュを超えた直後、2m程の渡渉に失敗。流されてしまいました。流れが早くあっという間に10mの補助ロープギリギリまで流され、あわや、と云うところでリーダーが、足がつく中州まで上手く誘導してくれ助かりました。軽い低体温症気味になりましたが、大休憩と日差しの下での河原あるきで、徐々に回復。30分以上時間をロスしてしまいました。

スゴ沢

上の黒ビンガ手前にスゴ沢があります。ガイド本ではエスケープとして記載されており、尾根を使って2,431mの無名のピークを目指す、とあります。しかし、どうみても入り込めない急峻な地形。河原で停滞しても決して入り込めないところです。

上ノ黒ビンガ(1)

上ノ黒ビンガ(2)

計画ではスゴ沢の出合で幕営予定でした。しかし、時間にして午後1時前。体力もまだあるし、このまま金作谷まで行くことになりました。この上ノ黒ビンガは、上ノ廊下最大の景勝地と言われています。深いゴルジュになっており、特に激しい徒渉や泳ぎなどありませんでした。入り込む日差しと重なり圧巻な世界が広がっています。しばし心奪われます。

金作谷

スゴ沢から2時間弱で金作谷出合に到着。まだ雪渓がありました。出合手前の右岸側に、河原から一段高い平地に絶好のテン場があります。枝沢から水もとれます。薪も不自由しません。入渓一日目に申し分のない場所でした。焚火で体を温めながら、衣類も、乾け、乾けと至福のひと時。9月の北アルプスは寒暖差があり夜は冷え込みます。テント設営でしたが、それでも寒かったです。

金作谷の淵

高巻き

泳ぎ

9月14日。入渓2日目。このペースだと、今日中に薬師沢小屋に抜けられる予定です。
朝6時出発。沢の水は冷たく体を縮めさせられます。泳ぎを回避したく、最初は泳ぎではなく右岸を高巻きました。最初にハーケンを打ってセルフをとり、ウエちゃんのビレーで、リーダーは階段状の壁を、へつり気味で登って行きました。水深が浅くなっている所までくると残置ハーケンがあります。ここでピッチを切って、5m程の高さをクライムダウンしました。100mにも及ばない距離ですが、1時間弱かかりました。やはり泳いだ方が早いと言うことで、その後は迷うことなくリーダーは水に飛び込んで行きました。

スゴの淵

三番目の難所、スゴの淵。ここは絶対に落ちることの出来ないへつり。左岸を進みます。高度もあり膝をついたまま前進しました。残置がありましたが、新たに残置ロープを設置し、ロープをつかみながら下降しました。高さにして3mぐらいです。

岩苔小谷出合

立石奇岩

金作谷のテン場を出発して、泳ぎやへつりの連続をくりかえし6時間半。一先ず安心の出来るエスケープ地、ここから高天原山荘へ抜けられます。水圧も少しずつですが、緩やかになってきて、張り詰めていた緊張が徐々に解けていきます。しかし、まだまだ先は長く続くのです。立石奇岩は思っていたより感動は小さかったです。やはり上ノ廊下での最大の感動は、徒渉や泳ぎなどを突破した時の方が大きかったです。難儀をしたところほど、感動が大きかったです。

B沢出合の懸垂下降

B沢出合

薬師沢小屋

ゴルジュ状で左岸を高巻き、残置があるので支点をとり5m程懸垂下降。右岸へ徒渉します。これが最後の渡渉で、この後、大道新道に合流し登山道や、河原歩きを繰り返します。所処矢印で導いてくれますので、迷うことはありません。B沢出合から進むこと1時間、薬師沢小屋に到着。小屋の夕食20分前とあって余韻に浸ることなく装備を解除しました。

計画から実践にいたるまで、責任を背負っての覚悟からか、時には厳しくもありましたが、最後まで無事に遡行出来たのは、リーダーのお蔭です。ウエちゃんは、徒渉の際には常に一緒でした。流されトラウマ気味の私を、力強くハーネスを掴み、勇気付けてくれました。
二人には、心から感謝しています。
応援してくれた仲間や家族にも感謝です。
みなさんのお蔭で、念願だった上ノ廊下完全遡行できました~ありがとう!

【装備】沢装備・ラバーソール・ロープ30m・補助ロープ10m×2・ハーケン・ハンマー
【服装】
《つかみ》
上:フラッドラッシュ(ファイントラック)、雨具、ライフジャケット(フロートベスト)下:フラッドラッシュタイツ、薄手長ズボン(以上ファイントラック)、膝パット
《うえ》
上:アクティブスキン長袖、ラピッドラッシュ、フラッドラッシュ(以上ファイントラック)、雨具、ライフジャケット(泳ぎ時のみ)
下:アクディブスキンタイツ、フラッドラッシュタイツ(以上ファイントラック)、薄手長ズボン、雨具