メンバー:こば(L)、うえ(記録)
ギア類:(2人あわせて)
ダブルロープ:2本、ヌンチャク:9本、キャメロット:#0.3〜4×1ずつ、#0.75〜2×さらに1ずつ、その他個人装備:クライミングシューズ、カラビナ・スリング等
8/10(土)
前夜の渋滞がひどく、沢渡駐車場に到着したのは深夜1:30頃だったが、翌朝はタクシーにすんなり乗れて、幸運にも5:30前に上高地入りすることができた。
寝不足の目をこすりながらも、横尾までは快調に進んでいく。
この日はとても天気が良く、本谷橋の前後からは暑さと寝不足に苦しめられ非常にしんどい登りになってきた。
息も絶え絶え涸沢に到着すると、生ビールを美味しそうに飲む人たちを尻目に、我々はソフトクリームで大休憩をとる。
涸沢から日帰りでアタックする手もあるのだが、明日の朝、なる早で取り付きたいので、根性で北穂まで登らなければならないのだ。
私は初めて北穂を南稜登山道から登ったのだが、急傾斜と灼熱の日差しでヘトヘトになってしまった。こんなに疲れて明日は大丈夫なのだろうか…
登山道の途中で、長野山岳警備の方からクラック尾根の最新の写真を見せてもらった。真新しい崩壊の後が見えたので心配していたが、北穂小屋の方に聞くと「今シーズン何パーティも登っているので問題ない」とのこと。
これで逃げ場はなくなった…
B沢下降点の偵察を済ませて小屋に戻る時、あまりの疲れから登山道をよろよろ登っていたら、小屋のお客さんから「あとちょっとだ!頑張れ!」と声援を頂いてしまった。大キレットを縦走して来たと思われたようで、縦走もしてないのにヘトヘトな自分が恥ずかしかった。
北穂の夜は満点の星空で、薄手のダウンと夏用シュラフでは結構寒かった。
8/11(日)
【アプローチ】
3:00起床、3:40出発で、昨日確認したB沢下降点に向かう。
B沢下降点は北穂小屋から大キレット方面に少し下り、1つめの鎖&鉄梯子の下に×印が連打されている岩が見える。近づくとと「B沢入口」の文字があるのですぐわかる。
装備を準備しながら日の出を待っていたら、手練れ風の4人パーティが来たので先を譲る。我々は明るくなってからスタートした。
B沢の恐ろしさは様々な記録で読んでいたが、まさに岩の墓場だ。
足元の岩は何一つ信頼できない。壁沿いの岩は比較的マシなので、右に左に側壁を伝いながら慎重に降りていく。
途中2箇所、残置ハーケンを使って懸垂した。
1つめは落ち口の左岸寄りをクライムダウンできる気もするが、落石必至なので大事をとった判断となった。
我々の後にもパーティが続々とやってくる。出だしの急な部分や、小ギャップを下る部分はどうしても落石を起こしてしまうので、十分に距離をとったり声を掛け合うなど注意が必要だ。
1時間少々降りたところで、左岸側壁にフィックスロープと足用のボルトが打ち込んである登り返しポイントに到着する。
表皮が傷んだロープにヒヤヒヤしながら2段登ると、右奥にペツルボルトの懸垂支点がある。ここを「斜めに懸垂しながらバンドに降りる」と先行記録で読んでいたのだが、実際は思いっきりトラバースしながら降りていくイメージだった。
斜上するバンドに降りて、その上の草付きの踏み跡を登っていくとクラック尾根の取付きテラスに到着する。
記録で見た「↑クラック」という文字は消えていて見つからなかった。
【1P目】(リード:こば)
凹角を登り少し進んだところで、残置ハーケンが固め打ちされているフェイスの前でピッチを切る。
トポの40mという記述よりは短めの印象だ。
【2P目】(リード:うえ)
ビレイポイントのあるフェイスをややトリッキーなムーブで上がった後、リッジに上がる場所を探しながら、左奥に回り込んでしまった。
回り込んだ突き当たりのフェイスには残置ハーケンが連打されていて、誰かがこのフェイスを登ってリッジに上がった様子を物語っているが、どうにも難しそう…。トポの記述は「やさしいリッジ」なのでどうも間違えたようだ。
ひとまず突き当たりのフェイスの残置ハーケンでピッチを切り、こばさんに登って来てもらった。ここで右往左往したせいで弛んだロープが浮石に引っかかりB沢に落石してしまった。人がいなくて本当によかった…。
【3P目】(リード:こば)
こばさんにも様子を見てもらったが、ここからリッジに上がるのは厳しそう…ということで、間違えた場所まで戻ることに。
リッジを回り込む手前のフェイスで、ピナクルを使ってビレイポイントとした。
後続パーティはここで1P目を切っていた。
【2P目・やり直し】(リード:うえ)
ハンドサイズのクラックを利用してフェイスを登るとリッジにでる。「やさしいリッジ」を登りきり大きなピナクルに登ると、旧メガネのコルだと思われる崩壊地帯が見下ろせる。ロープ長は約40mほど。
トポではこの手前でピッチを切ってから3P目でピナクルの右を回り込むようだが、私はこのピナクルの上で残置ハーケンを利用してピッチを切った。
【3P目・やり直し】(リード:こば)
ピナクルからコルへクライムダウンして、崩壊したナイフリッジを渡り対岸の壁を1段登る。今年崩壊が進んだと思われる真新しい白壁の前まで。ここの崩壊地はかなり脆くて、私は巨大落石を1尾根とクラック尾根の間のルンゼに落としてしまった。反省。
【4P目】(リード:うえ)
簡単なハンドクラックを1段上がると、次はV級のワイドクラックだ。
フットホールドが乏しいのだが、クラックの中のガバを使いながら少しずつ足を上げていき、チョックストーンを思いっきりひっぱって腰をねじ込み、なんとか安定した体制に持ち込んだ。面白いピッチだった。
その後、突き当たりのジャンケンクラック取り付きでピッチを切った。
写真で見ただけではジャンケンクラックの左右が同じ1枚岩にあるのだと思っていたが、実はワイドクラックのある右の岩の奥に、左クラックのある岩が重なっている構造だった。
【5P目】(リード:こば)
ルート中の核心と言われる、ジャンケンクラック左(V)を登る。
右のクラックは近づいてみるとオフィズスっぽいワイドクラック。
楽しい難しさでなく、苦しいになりそうだったのでここは左を選択したそうだ。
クラックはゆるいフィストでジャミングが効きづらい。右横の細いクラックに右手を引っ掛けながら、クラックと両方使いながら登った。残置ピトンが多く、ここではカムは使わなかった。
クラックはすぐに終わり、右のオープンブックのコーナー(IV)に戻るために、わずかなフットホールドで慎重にトラバースする。ジャンケンクラック自体よりもこのトラバースの方が難しかった。
トポではコーナーを登り切って、少しフェイスを登ったあたりでピッチを切るようだが、こばさんはその先の脆い凹角を越え、さらにルンゼを少し登った次のフェイスの前でピッチを切った。
【6P目】(リード:うえ)
左に回り込むラインもありそうだったが目の前のクラックが走ったフェイスを登る。トポには特に書いてないのだが、私にはかなり厳しく、V以上ありそうな印象だった。
正面のクラックの中の残置ハーケンにヌンチャクをかけて右横にカムをきめたあと、「あーでもない、こーでもない」ともがく私に、こばさんから「代わろうか」の一言。
「チョンボします」と、諦めた私はヌンチャクを鷲掴んで体を持ち上げ、なんとか届いた左手のガバカチに体重を預けて登り切った。(ここ、実はとても面白そうでやりたかったあ:こば)
リッジにあがった後はガラガラのルンゼを左手に見ながら、ルンゼが切れる突き当たりをめざし斜めに降りた。
トポではルンゼが80mと書いてあったのでかなり悩んだが、リッジの右を覗き込んだら断崖絶壁だったので消去法で正しいと判断し、ルンゼの突き当たりの階段状を少し登ったところ、巨大な平たいチョックストーンの下でピッチをきった。 ロープ長は40m以上だったように思う。
【7P目】(リード:こば)
チョックストーンの左下を回り込むように登ると再びガラガラのルンゼが繋がっていた。トポの「ルンゼが80m」の記述はチョックストーンの上下を合わせたものだったようだ。
左壁に沿って気をつけて進みながら、ルンゼの行き止まりの大テラスでピッチを切る。
【8P目】(リード:うえ)
大テラスの奥側も登れそうだったが、一段上を少し戻ったところの凹角から登った。
傾斜はゆるく登りやすいのだが、すべての岩が動くので上から押し付けるように慎重に登る。
凹角の頂上のピナクル目指して登りきると、登山道が間近に見えて驚いた。トポではもう1pあるはずなので嫌な予感はしたのだが、そこから右に方向転換して踏み跡を上がっていくと、北穂小屋の20mほど下、大キレット登山道のすぐ横にトップアウトしてしまった。
右手奥を覗くとトポの最終ピッチであると思われるバンドが見えたので、凹角の途中でピッチを切り、壁を直上してバンドを左上するのが本来のルートだったのかもしれない。
最終ピッチが無くなってしまったことをこばさんに謝って、周りの登山者の目に照れ臭さを感じながらカムで支点構築して、こばさんに登って来てもらった。
スッキリしないトップアウトではあったが、無事に登り切ることができたことは本当に嬉しい。
行動中はほとんど補給をしていなかったので、登攀が終わるとそれまでの疲れがどっと出てきた。
北穂小屋でカレーを食べてひと休みしたのち、急いでツエルトを撤収し、ヘトヘトになりながら涸沢に降りた。
お盆の涸沢は大盛況で、生ビールも名物・手作りおでんも売り切れだったが、缶ビールとレトルトおでんで祝杯をあげた。
涸沢の夜は北穂に比べてかなり暖かかった。
8/12(月)
赤く染まる奥穂を眺め、美しい涸沢を堪能したのち足早に下山。
この日も日差しが強く、標高を下げるにつれてどんどん暑くなっていく。
徳沢園のコーヒーフロートがとても美味しかった。
そして観光客で賑わう上高地に無事に下山した。
今回、憧れの滝谷を登るという非常に得難い経験ができた。
こばさんはドーム中央稜を登った経験があるが、私にとっては初めての滝谷だった。
ボロボロとした岩壁に囲まれた薄暗い谷間。ルート上のどこにも確実なホールドがない緊張感。
そして近くに大キレットや、高度をあげると槍を眺めながらクライミングできる素晴らしいロケーション。
滝谷らしい、大きな充実感を得ることができた。
ただ一つ心残りなのは、結局私にはクラック尾根の全貌がよくわからなかったこと。
進むべき方向に確信が持てないので、途中に乱打されている残置ハーケンに随分惑わされてしまった。
お隣の1尾根は山頂から1枚のひだが綺麗に伸びるように見えるが、クラック尾根はいくつかの尾根をつなげ、弱点攻略しながら登っていくルートなのでは…と、こばさんの言。
たしかに…
今回の経験をプラスにして、今後の山行に生かしていきたい。
最後に、いつも先陣をきって導いてくれたリーダーに感謝!