夏合宿縦走隊番外編 『隊長ヨレヨレ顛末記』
プロローグ
合宿二日前、私は隊長ヅラしてエラそうに参加者にメールを送りました。
内容は、「皆さま、ここまで来たら後は体調管理に気を付けて合宿当日を迎えましょう!」
合宿前夜、軽い悪寒と頭痛に襲われる。「あれ~これはヤバイかも!一昨日会社サボってサイトーさんと深谷ジムで汗だくになって、そのまま着替えず帰ったのがマズかったか?」
7/28 合宿1日目(自宅~長野駅集合~白馬大池テン泊)
ミナト、ユミ、ミナザエモン
4時の目覚ましで起床するも、完全に風邪の症状。「やっちまった!これじゃ穂高合宿の二の舞だ…」3年前の夏合宿で、やはりリーダーであったにも関わらず風邪をひいてしまい、多大なる迷惑をかけたことを思い出し悔いるも後の祭り。「もう行くしかない!」と根性キメて20キロ超のザックを担ぐも、駅まででヘロヘロです。「こんなんで大丈夫かぁ?」でも隊員の新人たちに気を使わせるわけにはいかないので、風邪ひきのことは気付かれない様にしなければ…。
長野駅で新人のユミちゃん、ミナザエモンと待ち合わせ。ミナザエモンがなかなか現れないので探しに行くと、ポケモンGoをしてました。ったくも~。
特急バス~ゴンドラ~ロープウェイと乗継ぎ白馬大池への登山口へ到着です。
「まず俺がペースを作る。縦走はゆっくり、これが基本だ!」と自分が先頭になりゆっくりペースで歩き出すが、なんのことはない、体調不良なのでゆっくりしか歩けないことをカモフラージュする作戦なのでした。そんなことを知らない新人二人は素直に従います。カワイイもんです。のんびりと3時間程登って本日のテン場の白馬大池に到着。静かで綺麗でとても素敵な場所です。池の畔のテン場は平らで水場もあり、トイレも清潔です!
夕食は二人の新人さんが作ってくれたマーボ茄子です。ユミちゃんは油を忘れたので失敗作だと言っていましたが、トンちゃんの「茄子を忘れたマーボナス」に比べればどうってこと無いです。味付けも丁度良くとてもおいしく頂きました。
夕食後はすぐに就寝します。ミナザエモンは飲み足りないと文句を言っていますが、「縦走は早寝早起き、これが基本だ!」とさっさとシュラフに潜り込むが、なんのことはない、体調不良なので早く寝たいことをカモフラージュする作戦なのでした。そんなことを知らないユミちゃんは素直に従います。が、ミナザエモンは従いません!テントの真中であぐらをかき、ひとりで缶ビールをグビリとやり始めました。恐るべしミナザエモン…。
7/29 合宿2日目(テン場~白馬三山縦走~天狗山荘テン泊及びサブ隊合流)
ミナト、ユミ、ミナザエモン、天狗合流サブ、タケ
3時半起床。外には星が瞬いていますが、体調は昨日より悪くなっている感じです。う~んマズイなぁ…。朝食のラーメンもほとんど喉を通らず、二人に全部食べてもらいました。
予定の5時を少し過ぎて出発です。ミナザエモン、ごちゃごちゃしたものをもっとまとめて、ちゃんと予定時刻に出発できるようにしましょうね!
天気も景色も上々、雷鳥もお目見えし、新人二人は高度が上がるにつれどんどん感激度がアップしていきますが、私は高度が上がるにつれ咳き込む様になり、どんどん体調が悪化していきます。
新人:「わ~キレイ!」「スゴイ雲海ぃー!」「感激です!」「どこまでも行けそうですぅ」
私:「よかった ゲホゲホッ ね…、ゲホゴホ、カー、ぺッ」「少し休もうか…」
新人:「どっか悪いんですか、大丈夫?」
私:「ぜんぜん大丈夫、ちょっと咳が出るだけ…」とあくまで体調の悪さを悟られないように体裁を繕いますが、もう気付いているんだろうな、たぶん…。
残念ながら白馬岳頂上はガスの中、なのでさっさと白馬岳頂上小屋へ下り休憩しましょう。と、ここでユミちゃんがお知り合いに遭遇です。こんなところで奇遇でしたね!
さて、これから杓子岳、白馬鑓ケ岳と縦走するのですが、「こんなにキツかったか?」と言うほどキツかったです。ですので、景色や状況などの記憶がありません。ただ、杓子岳頂上でサブちゃん隊と無線交信が出来て少し元気をもらえました。
白馬鑓ケ岳をやっと越え、ヨロヨロと本日のテン場の天狗山荘に向かっていると、鑓温泉の硫黄の香りとともになにやら聞こえてきました?どこかで聞いたことのある歌声…野太い拳の効いた…あの歌声は、そうです!北島サブちゃんならぬ北稜サブちゃんでは!!
♪はぁ~るばるきたぜぇしーろうまぁ~ なぁ~なつのさけをの~みながらぁ~♪
上機嫌で歌いながら我々を迎えに来てくれたサブちゃんに「ケッチボー」すると、サブちゃんもケッチボーを返してくれました。嬉しいですね!感動的なお迎えケッチボーです!!
天狗山荘のテン場では、合流隊の新人タケちゃんが我々を発見してなぜかピョンピョンしています!(この後も彼女はいろんな所でピョンピョンしていました。飛び跳ねるのが好きなのでしょうか?)
夕食は私の人生初となるロコモコ丼です。感動的なおいしさ!で、体の具合も良くなり私も思わずピョンピョンしたくなりましたよ!ありがとうタケちゃん!!
7/30 合宿3日目(テン場~不帰ノ瞼~唐松岳~唐松山荘テン泊)
ミナト、ユミ、ミナザエモン、サブ、タケ
3時半起床、天気は多少ガスがかかるもまずまずで、雨の心配はありません。5時出発でサブちゃんを先頭に天狗の大下りへ向かいます。
私は、ロコモコパワーのおかげで元気を取り戻すも、大下り終わったらパワー切れになってしまいました。それにしても、私以外の4人は元気全開です!うらやましい…。
大下り終わると、今合宿最大の難所の不帰ノ瞼です。取付く前にヘルメットと簡易ハーネスを装備し、いざ出陣です。ここで先頭が私に代わります。私がミナザエモン、サブちゃんがユミちゃんの安全を確保します。あれっ、タケちゃんの確保は?えーと、まあ、大丈夫でしょう…。
不帰Ⅰ峰は、特に問題ありません。
不帰Ⅱ峰が問題ありです。危ない所には鎖が付いているのですが、高度感があります。でもみんなヘーキなんですね!大したもんです。
危険個所を過ぎてⅡ峰の南峰まで来たところで、安堵したからか、とうとう私が発熱しグロッキー状態になってしまいました。仕方がないので、皆に私の荷を分担してもらうことになりました。「情けないなぁ」とショボクレていたら、ミナザエモンに「つまらない男のプライドなんか捨てちゃいなさいよ!」と叱られてしまいました。う~もっともでございます。
唐松岳を越えて唐松山荘に到着したところで、さらに情けないことに、私が「もうこれ以上動けません」状態になり、今後の行動ついて合宿最大の決断をしなければならなくなってしまいました。案は二つ。
A案:唐松に全員がテン泊し、明日は八方尾根で下山する。(五竜岳は諦める)
B案:ミナトのみを唐松に残し、サブちゃんが隊長となって計画通りに五竜登頂を実行する。当然、ミナトは明日一人で八方へ下山することになる。
優しいサブちゃんは新人たちを気遣いB案を推挙したいようだが、さて、新人たちはどのように考えているのだろうか?新人たちには難しい選択であり、議論が続く。
この時、私は笹田師匠との合宿を思い出していた。師匠は言う「合宿の良さは、先輩と新人が寝食を共にし、お互いに助け合いながら行動し信頼を築き、かけがえのない山の仲間となっていくことだ。それが同じ釜の飯を喰った仲間というものだ」また、こんなことも教わった「サイゴマデ タタカウモイノチ 友ノ辺ニ スツルモイノチ 共ニユク」松濤明の有名な遺書の一節である。友を見捨てれば助かるかもしれないが、松濤は友と一緒に死ぬことを選ぶ。私の決断は決まった。
重苦しい沈黙を破って私は言った。「リーダー権限で、今日は全員が此処に泊まることにします。そして明日は全員で八方尾根を下山します。以上、よろしくお願いします」
しかし、自分が原因でこんなことになってしまったので、この決断を口にすることにはかなりの勇気が必要であったことを付け加えておきます。小心者なんです自分…。
その後、私は2人用テントに隔離され、みんなからいろいろな介護を受けて、十分な療養を得ることができました。おかげさまで随分と回復したように感じます。本当にありがとうございました。
7/31合宿4日目(唐松山荘テン場~八方尾根で下山~帰京)
ミナト、ユミ、ミナザエモン、サブ、タケ
5時起床、今日も天気は上々で7時出発。唐松山荘前で山ガールモドキのピョンピョン写真を撮ってから下山開始です。
尾根道からは、縦走してきた山並みが見渡せます。「あんなに遠くから歩いてきたんだぜ」「ホント、凄いですよね!」小蓮華、白馬、杓子、鑓、不帰、唐松、本当によく歩きました。これぞ縦走の醍醐味ですね!
大勢の登山者と観光客で賑わう八方池山荘とリフト乗場が見えると、合宿も終わりに近づきます。いつものことなのですが、「いろいろあったがもう終わりだ」と思うと、やはりちょっと寂しいです…。
エピローグ
隊長の私が不注意により風邪をひき、参加の皆さまに大変な迷惑をかけてしまった事を深く反省します。ちゃんと注意していれば防げた事なのに、本当に情けないことです。この場を借りて皆さまにお詫びします。どうもすみませんでした。
しかし、私がダメになってしまったことで、サブちゃんを中心に新人たちが一致団結し、大変良くまとまったパーティーになったように見受けられます。隊長が頼りにならなくなってしまったので仕方がないことだったのでしょうが、とても頼もしく感じられました。
また、新人たちの著しい成長も嬉しく思います。最終日の八方尾根は登山初心者であふれておりました。4日前は同様の初心者であった新人たちですが、合宿を過ごすうちに歩き方や身のこなしが格段に成長していったことを、この八方尾根の初心者さん達と比較することで十分確認することができました。
最後にお願いですが、これに懲りずにまた山行をご一緒しましょう!同じ釜の飯を喰ったかけがえのない仲間なのですから…。
ミナト記